2004 Fiscal Year Annual Research Report
日本列島における〈けがれ観念〉に関する総合的研究:文化人類学の立場より
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14510341
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
関根 康正 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (40108197)
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Keywords | 門中墓 / ノロ制度 / イデオロギー / 運 / ケガレ / ツカサ / 神カカリヤ / ウタキ |
Research Abstract |
今年度は、沖縄本島と宮古島を中心に、現地調査および資料収集を行った。その一:沖縄本島に関しては、ケガレ観念を考えるときに重要な墓所のあり方が首里王府の歴史的存在が影響して北部と南部では相違する事実に注目した。南部では大きめの亀甲型ないし掘り込み型の門中墓が一般的で個々独立的にあるが、中北部では亀甲型の門中墓は一部の支配層にのみ認められ、一般村民は破風型の小規模な家墓に収まっており、墓所は密集してある。この南部と北部との差異は、墓所の明るさの違いにも認める。暗く近寄りがたい北部に対して、通常時にも憩いの場になる明るさが南部の門中墓の墓前空間には備わっている。また墓所の位置の村落の中での周辺性と墓参の頻度にも表れている。北部の方は村はずれに集合的作られるが、南部は住空間に混じって散在している。こうした地域的差異は、死のケガレへの意識や他界観(生者と死者の関係)に深く関わることは間違いなくより体系的な考察が必要だが、目下の仮説は、一見排除的に見える北部の方にむしろ生者と死とのイデオロギー性の低い関係がみられ、逆に死を越えて生者が死後の世界と連続的にある方の南部が琉球王朝イデオロギーの内部にあるのではないかと考えている。その二:宮古島は琉球列島の中にあっても独特な神高きウタキやマウ神の文化を伝えていると言われる。また宮古には洗骨の風習がないことも比較の意味を高める。ここでは不浄のことをブソーズというが、ウタキに関わる神職(神カカリヤ/ツカサ)はブソーズをよく気にする(誕生10日、月経7日、死亡3年)。ここに王府イデオロギー制を担うノロ制度の末端が息づいている。しかし、一般人には死のブソーズは意識されているものの、より興味深いのはフー(運気)を大いに気にすることである。運気が下がることを嫌うのである。病院は運が下がるところという。また、「葬式の出た家は借りても良いが、出産のあった家は借りるな」といわれ、これも運気から解釈される。さらに「葬式につかった赤旗を赤ふんどしにして漁に行くと大漁する」とも言ったり、「墓に行くよりもウタキ(ウガンジョ)に近づく方が怖い場所であった」という見方も死を単に不浄とのみ見てないことを伝える。ここでのケガレ観念は、ノロ制度と仏教寺院の葬式の影響の両面から考察する必要があることがわかったが、フーのようなその下の基層文化の見方をさらに掘り起こすことが大切である。
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Research Products
(4 results)