2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本列島における<けがれ観念>に関する総合的研究:文化人類学の立場より
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14510341
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
関根 康正 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (40108197)
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Keywords | 奈良盆地 / 郷墓 / 両墓制 / 無墓制 / 死のケガレ / 浄土真宗 |
Research Abstract |
本年度は最終年度として、日本社会の中でも最も充填した歴史を有する奈良盆地を調査地に選定し、本プロジェクトの調査研究を総括する意識をもって現地調査に臨んだ。ケガレ観念を析出するために、特に墓制に注目し、葬送儀礼のやり方、墓地についての観念を実地での観察、住民へのインタビューによってデータ収集を行った。奈良盆地および大和高原を主要な調査地にした。奈良盆地を含む近畿では「郷墓」「両墓制」「無墓制」など多様な形態をとる墓制の問題が民俗学で詳しく検討されてきた。その蓄積を踏まえ、そうした墓制の実態において表出されているケガレ観念がいかなるものかを探求してみた。特に両墓制は埋め墓と参り墓の分離を特徴とし、埋め墓には葬送儀礼の後はほとんど参らず、打ち棄てられた状態になる地域があるとされており、その理由が死のケガレの忌避からきているとされてきた。この点については、両墓制地域の現地調査の結果、火葬の導入が変化を引き起こしていることが確認できたが、今も土葬している地域もあり、そうした所でも必ずしも埋め墓に墓参しないとは言えない事例が少なからず確認できた。死のケガレの忌避という説明は、その内容が詳しく再考される必要が見えてきた。つまり忌避ばかりでなく、死のケガレを有するとされる埋め墓の両価的な意味を考える余地を村人の墓参行動、お話からうかがえたことは大きな収穫であった。両墓制の地域での、「墓地の跡に住居を建てることは問題ないが、神社の前に家を建てるといいことがない」という村人の発言は重い意味がある。無墓制の地域の実地調査も行った。そこは浄土真宗地域でその教義から無墓の村と記述されてきたが、実際には火葬への移行でこの10年ほどで石塔墓が整っている。ただし、真宗は遺骨の一部を本山に納めることで、墓地には遺骨は収められない。それ以前の土葬のときは両墓制の埋め墓の状態で参り墓がない状態であった。これが無墓制とされた理由である。しかし、そのときに埋め墓に墓参行動がなかったとは言えない証拠が見られた。埋めた場所に標しとして、木柱の墓標が朽ちた後で石を置いていることで、長く個人性や家の個別性が維持されている様子が見え、頻度は少ないにしても真宗の教義では説明しきれない墓へのこだわりが見えた。「郷墓」も訪問したが、両墓制との関係を観察した。奈良盆地は同和問題への意識が極めて高く、被差別部落が別に村を構えている。そういう村には浄土真宗が普及している。差別とケガレの問題に関して県教育委員会の同和問題関係資料センターなどでお話もうかがい、差別を相対化するための部落史の再考が蓄積されていることが確認できた。最終年度に奈良という複雑な様相の地域を調査でき総括的な議論を深める資料が収集できた。
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Research Products
(1 results)