2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510411
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
渡辺 和行 奈良女子大学, 文学部, 教授 (10167108)
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Keywords | 移民 / 外国人労働者 / 近代フランス |
Research Abstract |
本研究の目的は、外国人に注目することで、国民概念や国民意識の形成を搦め手から明らかにすると同時に、移民社会に突入した現代人に、外国人との共生の可能性について歴史的展望を与えることにあった。わが国でも、外国人労働者に関する議論が20世紀末より繰り広げられ、2004年11月には、労働力不足ゆえに、外国人労働者の受け入れ問題は正念場にさしかかっており、「労働開国」が迫られているという意見が発せられた。 こうした状況を前に、移民労働者を19世紀より受け入れてきたフランスの歴史は、重要な参照規準となっている。ところが、フランスの移民労働者について歴史的に概観した邦語文献すらない状況であった。そこで、本年度は近代から現代までの「移民と外国人のフランス」について研究をまとめた。通史的な文献がなかったこと自体、研究の立ち後れを示している。概要は以下の通りである。 国民や外国人が、法的に定義されたのはフランス革命に遡る。1791年憲法で国民が定義され、国民と外国人を分かつ可視的な象徴として近代的な旅券が誕生した。さらに、ナポレオン法典に「フランス人の資格」が明示され、国民共同体に受け入れ可能な者と排除すべき者との線引きが、帰化の問題を通してクリアになる。国籍法が制定されたのは1889年のことであるが、殺到する外国人労働者を前にして、第3共和政期に身分証や労働許可証などによる外国人への規制が強化されていった。第二次世界大戦後も、フランスは労働力を移民に頼る政策を続けたが、移民送出国がヨーロッパから旧植民地へと変わったことで現在の移民問題が生じたのである。 こうして通観するだけでも、フランスにおけるナショナル・アイデンティティ形成の問題(外国人を排除する思想や制度の確立および外国人を同化統合する政策の遂行)が明らかになるだろう。排除と統合の一般性と特殊性を比較検討することが、次の課題である。
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