2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510506
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 和久 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (10108102)
|
Keywords | 啓蒙主義 / 光学 / 幻覚 / 超自然 |
Research Abstract |
3年計画の初年度に当たる本年度の研究実績は、計画していたジョン・ウィルソン関係の図書整備は予定ほど進まなかったが、より重要な具体的なテーマ領域の確定という点では、『アムブローズ館夜話』及びそれを連載されていた当時の『ブラックウッズ・マガジン』の他の記事を参照して吟味した結果、今回は啓蒙主義以降の合理主義とスコットランドの伝統的な価値観の交錯する場としての「光学的表象」に的を絞ることができた。当時流行していたいわゆるゴシック・ロマンスに頻出する「幻覚」が、スコットランド文学・文化においては迷妄と啓蒙のせめぎあう表象として機能していることが判明したからである。幻覚を生み出す超自然的能力を措定するから、合理主義的に人間の錯覚を生み出す自然科学的な装置によって説明するかという差異は、単に啓蒙主義の遺産のなかにあった時代の「知」のありようを示唆するばかりでなく、文学史的正典形成にも大きく影響した可能性気配があり、『アムブローズ館夜話』の研究によって、その問題に新しい知見が提供できると思われる。 そのため、英国に赴いた資料収集においては、当時改訂された『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の第4版を参照して、光学関係の記載を検証したのみならず、1820年代にエディンバラで何度か行われ、人気を博したらしい幻灯機の実演にまつわる記事を発見できたのは大きな収穫だったその解析はまだ十分ではないが、そこではたとえば「ブロッケン怪光」と呼ばれる一見「超自然的」と思われる現象が、いかに合理主義的に説明できるかが記されており、自然科学が「驚異」の領域を「蓋然性」の枠内へと還元するイデオロギーとして機能していたことが判明するそれを『アムブローズ館夜話』での新旧価値観の対立表象と絡めて考察するという来年度以降の課題が明確となった。 なお、上記のように、目下資料収集の段階にあるため、研究成果は発表していない。
|