2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 和久 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (10108102)
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Keywords | 啓蒙主義 / 光学 / 幻覚 / 都会 / 土着 / 超自然 |
Research Abstract |
19世紀初頭のエディンバラの都会文化はスコットランド啓蒙主義の遺産を引き受けつつ、古典主義からロマン主義へと移行しつつあるロンドンの文学状況をたえず意識し、その洗練を競いながら、同時に、洗練の対極に了解される土着性を裏側に貼り付けていた。それが19世紀前半の英国で熱狂的な読者を獲得した『ブラックウッズ・エディンバラ・マガジン』の看板連載であった『アムブローズ館夜話』に典型的なかたりで現れている。その架空座談記の中心人物である「クリストファー・ノース」と「エトリックの羊飼い」に割り振られた言説の意味作用を分析することによって、19世紀エディンバラ都会文化の抱えこんだ葛藤・矛盾があらわになる。今回の研究ではその矛盾が典型的に現れる局面として光学についてのスタンスを、「ノース」に代表される啓蒙された知識人と「羊飼い」の体現する伝統的な土着の超自然観との差異として抽出した。そのときに注目すべきは『ブリタニカ百科事典』の増補版で光学的記事が増えていること、また当時の代表的知識人であるD.S.Brewsterの啓蒙的な科学書でも同様に、幻覚を生み出す幻燈などの自然科学的装置や知見についての記述が見られることである。そのような記述を参考にしつつ、『アムブローズ館夜話』掲載時に出版された「羊飼い」ことジェイムズ・ホッグの『男たちの3つの危難』において、幻覚を超自然現象として現出させる魔術とそれを自然科学的に理解しようとする視線とのせめぎあいが描かれていることを確認し、あわせていわゆる標準英語とスコットランド英語の使用域にも目を配りつつ、『アムブローズ館夜話』での知識人「ノース」が土着の「羊飼い」の言説をいかに抑圧したかを分析した。
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Research Products
(1 results)