2002 Fiscal Year Annual Research Report
1920年代におけるイングランド文化・アイルランド文化全般の社会思想史的考察
Project/Area Number |
14510507
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (80154516)
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Keywords | モダニズム / 転換期 / 知識人 / 大衆 / 探偵小説 / ナボコフ / ジョイス |
Research Abstract |
第一次世界大戦後の世界における価値観の劇的な変動のありかたを、いくつかの特徴的な様相をとおして分析し、解明することをめざした。解明の過程にあっては、以下の諸点を念頭においた。(1)伝統的な美学ならびに美意識の崩壊。(2)一般的に故郷喪失として性格づけることのできる、20世紀全体をつうじて浮上してきた経験の実相。(3)それらの典型的な事例を呈示していると思われる知識人たちの思想的基盤の形成。(4)場合によっては知識人階級と対立を演じるいっぽう、その活動をささえ正当化する、趣味および全般的輿論の主体ともなり得る大衆と呼ばれる共同体の重要性。以上のような問題設定を踏まえるとき、取り組むべきいくつかの課題が明らかとなった。まず、(1)の点に関連して、失われた価値とはいかなるものなのか、一般に新しさとしてとらえられ、モダンと称されることもある美の様態とはいかなるものなのかを明らかにしなければならない。この点を(2)、(3)、(4)と有機的に結びつけ、より実り豊かな研究の展開を視野に入れるとすれば、研究対象はおのずから汎ヨーロッパ的、全世界的なものへと広がってゆくことにならざるを得ない。(4)の点についていえば、1920年代に主に英語圏においてジャンルとしての確立を見た探偵小説と呼ばれる大衆文学の分野が、その後どのように変容を遂げていったかを(日本における動向をも含めて)追跡してみる必要がある。今年度は、とくに(2)、(3)の点に着目しつつ、ロシア語作家として出発しながら、イングランドで青年期を過ごし、伝統的英語文学のみならず、ジェイムズ・ジョイスに代表される同時代の言語藝術からも深甚な感化を被ったヴラジーミル・ナボコフの代表作を取りあげて、その全体構造にかんする分析を行なった。
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Research Products
(1 results)