2005 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀イギリスにおける性的倒錯とその文学的表象についての研究
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14510508
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
宮崎 かすみ 横浜国立大学, 教育人間科学部, 助教授 (10255200)
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Keywords | ホモフォビア / ミソジニー / キプリング / ディジェネレーション / 同性愛 / 夏目漱石 / ダーウィニズム / ホモソーシャル |
Research Abstract |
平成17年度は最後の研究年であったが、前年度までに固めた基礎的研究の上に立ち、主として漱石の比較文学的研究を著作として刊行するための研究、調査、執筆に主な時間を費やした。 前年度から引き継いでいた仕事として、ラディヤード・キプリングについての論考、「帝国の幽霊たち-ホモフォビアとミソジニーの植民地表象」が『キプリング-大英帝国の肖像』(彩流社)として4月に刊行された。ここでは帝国という男性的事業の幻想性とそれがいかにホモセクシュアルな感情を伴っていたか、しかしそれがホモフォビアとミソジニーという規制装置によって干渉され、それが幽霊という表象となって表現されていたことを明らかにした。帝国というシュミラークルな磁場における同性愛表現の可能性に新たな光を当てた論考である。『英語青年』等の書評にも取り上げられ、高い評価を得た。 また、10月には、日本ペイター協会で「ペルセポネと透明性の美学」というタイトルで研究発表を行った。ぺいた世紀末イギリスにおいて、ペルセポネというギリシャ神話の女神のイメージが、同性愛者、もしくは倒錯者の表象として広く流通していたことを取り上げ、これについて、ウォルター・ペイターの『ギリシャ研究』や『プラトンとプラトニズム』などのギリシャに関する論考から考察し、ペイターが潜ませた同性愛のイメージが同時代人たちに理解され、一定程度の認知を得て、流通していたことを明らかにした。 7月には、キプリングの第一次世界大戦後の戦争を扱った短編小説3篇についての研究発表のディスカッサントとして、英文学会若手の会において、発表を行った。 一昨年度来の、夏目漱石の精神の根底にあったホモソーシャル性とそれと不可分なホモセクシュアル性とが近代化によっていかなる精神的打撃を受けたかを跡付ける筆者の一連の研究は、各方面から大変新鮮であると、高い評価を得、書籍として出版することになった。これまでに発表した『門』論、『彼岸過迄』論に加えて、『それから』『心』『明暗』『我輩は猫である』について扱う著作を執筆中であり、その成果は来年度に刊行できる予定である。
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