2004 Fiscal Year Annual Research Report
改変の文法-ハーディ初期小説における脱エロス化された語り
Project/Area Number |
14510512
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 助教授 (00256025)
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Keywords | トマス・ハーディ / 改変 / 本文概念 / テクスト生成 / 検閲 / 自己検閲 |
Research Abstract |
当初の目的どおり、本年度ではトマス・ハーディの初期の小説に施された改変を分析することによって、初期の小説に固有の改変の文法を明らかにした。現在のハーディ研究においては、(1)ハーディはグランディズムゆえに、中産階級向けの家庭雑誌ではあからさまに性的な挿話を削除した、(2)後年、削除した表現および内容を復元し、大抵の場合、当初の構想以上に語りをエロス化した、という説が広く流布している。しかし本研究では、そうした公式は概ね中期・後期の小説には当てはまるものの、初期の小説には当てはまらないこと、初期の小説には独自の改変の詩学があることを論証した。 具体的には本年度は、『はるか群集を離れて』の草稿分析に従事し、各ヴァージョンに固有の改変の傾向、および約40年にわたる改稿の傾向を炙り出した。また版ごとに変わりゆくテクストの揺らぎに注目することによって、一つのテクストを特権化する従来の本文概念を徹底的に問いに附した。 言うまでもなく、初期の小説に固有の文法を提示するには、それが中期・後期の文法とどう異なるのか、また、そもそも中期・後期の文法とはいかなるものなのかを検証する必要がある。そこで本年度は、後期のハーディ小説のなかから、『カスタブリッジの町長』を取り上げ、この小説の改稿をも明らかにした。さらにそれが『はるか群集を離れて』の改変といかに異なるのか、また改変の余波を蒙ったテクストに何が起きているのか、を吟味・検討した。
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Research Products
(1 results)