2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510526
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
木下 卓 愛媛大学, 法文学部, 教授 (00136293)
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Keywords | 歩行 / 旅 / 呪術性 / 神秘性 / 西欧文明 / ロマン派 |
Research Abstract |
「自然」はいかにして発見されたのかという問題提起のもとで、文学テクストに描かれた「自然」について考察するなら、イギリスにおける「自然」の発見は、18世紀のロマン派の登場をまたねばならなかった。それではなぜ、ロマン派には「自然」の発見が可能であったのか。ひとつには、ニュートンの『光学』によって光が七色に分化されることが明らかになることによって「視る」という行為に大きな変容が生じ、色彩が細分化された時代が始まっていたことがあげられるが、こうした視覚文化への傾斜だけに根拠を求めるだけでは不十分である。最大の要因は、人間が移動するということ----歩行や旅---に求められることを考察した。前ロマン派のJames ThomsonやWilliam Wordsworthが歩き続けることによって「自然」や「風景」を発見し、うたったように。 ポストコロニアルの作家ですぐれた紀行文を書き続けているV.S.ナイポールの場合、旅することによってヨーロッパ中心主義に異議申し立てをするばかりでなく、その土地の「自然」と「風景」を発見する。しかし、彼によって発見された「風景」は、訪れた土地がどこであれ、彼を拒絶するものであることに論究した。インドはもとより、彼が訪れたフランスのかつての植民地コートジボワールの「風景」が、歴史の流れのなかでキリスト教やイスラム教を表層では取り入れてはいても、基層には伝統的な呪術が支配する世界が広がっており、そこでは自然界のあらゆるものに霊性が与えられて呪術性と神秘性が潜んでいる。灼熱の太陽が沈んだ闇の中から人間と森羅万象の息づかいが響き合いながら渾然一体となっている、西欧文明とは無縁の人間と「自然」のありようについて論究した。
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Research Products
(1 results)