2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510526
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
木下 卓 愛媛大学, 法文学部, 教授 (00136293)
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Keywords | 自然 / ピクチャレスク / 徒歩旅行 / Pedestrian / 「歩く」ことのイデオロギー / ロマン派 |
Research Abstract |
人間を寄せつけない北海道の「自然」を描いた著作、岩井洋著『国木田独歩空知川の岸辺で』を学会誌で書評することによって、イギリスの「自然」観の独自性がピクチャレスク美学に基づいていることに気づき、18世紀イギリスの美学理論と旅行文学の関係に注目した。この時代の「ピクチャレスク」と「崇高」という美学理論を検証しながら、前者がピクチャレスク・ツアーやイギリス式風景庭園、そして風景詩などに深く関わっていたことを明らかにした。ピクチャレスク・ツアーを大流行させるきっかけを作った、国教会の牧師であり学校教師であったウィリアム・ギルピンの著作から、「ピクチャレスク」美学とは理想としての風景を呈示するものであって、現実の風景を指すものではないことを論証し、この旅行ブームが18世紀終わりに衰退した要因を探った。 それまでの旅は、上流・中流階級の者だけに許された馬や馬車を使ったものであり、徒歩による旅は浮浪者や追い剥ぎなどに特有のもので、不法性を喚起するものであった。しかし、1780-90年代に若者たちのあいだに広まった徒歩旅行は、ピクチャレスク美学の理想の風景とは異なる現実の風景を呈示させるものであり、ピクチャレスク・ツアーを衰退させることになったのである。それではなぜ、若者たちは「歩く」という不法性を喚起させる旅をあえて行ったのか。また、「歩く」という行為はいかなる文化的・政治的イデオロギーを包含していたのか。「徒歩による」という意味をもつ‘pedestrian'という英語の変遷に着目して、健脚だったことでも名高いイギリス・ロマン派の詩人ウィリアム・ワーズワスの作品を取り上げ、「歩く」ことと文学表現の関係や「歩く」ことと「自然」の発見との関係について研究した。
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Research Products
(1 results)