2002 Fiscal Year Annual Research Report
等質物語世界的小説の語りの構造に関する共時的・通時的研究
Project/Area Number |
14510538
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
遠藤 健一 東北学院大学, 文学部, 教授 (20118326)
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Keywords | 物語り状況の類型 / 等質物語り世界的語り / 共時モデル / コミュニケーションの場 / 声 / 焦点化 / 語り手の<わたし> / 作中人物の<わたし> |
Research Abstract |
近・現代小説の始発と終端に特徴的な一人称の語りあるいは等質物語世界的語りをカヴァーし得る物語り状況の共時モデルを策定することが本年度の目標である。等質物語世界的語りの物語り状況の共時モデルたる本研究が提案する類型論は、シュタンツェル(1979:改定2版1982)及びジュネット、(1973:1985)の物語り状況の類型論の折衷として試みられる。但し、オニール(1994)の「物語内容は、二重の媒介、つまり「語る声」と「見る眼差し」を通して提示される、あるいは、物語テクストにと変形される」という認識を前提として。(1)語りの水準の特定化を含む語りの「コミュニケーションの場」の範疇、(2)「語る声」の分節範疇としての「声」の範疇、(3)「見る眼差し」の分節範疇としての「焦点化」の範疇を不可避の範疇として設定する。そして等質物語世界的語りの物語り状況にとって、最も重要と思われる(4)語り手のくわたし>と登場人物の<わたし>の関係性の範疇を設定する。(1)の「コミュニケーションの場」の分節範疇はジュネットの語りの水準の範疇の読み替えとして、(2)の「声」の範疇はシュタンツェルの叙法の範庸の一部及びジュネットの距離の範疇の読み替えとして、(3)の「焦点化」の範疇はシュタンツェル及びジュネットのパースペクティヴの範疇の読み替えとして、そして(4)語り手の<わたし>と作中人物の<わたし>の関係性の範庸はシュタンツェルにおいて問題とされた「物語るわたし」と「体験するわたし」との実存的な関係の読み替えとして設定される。コーン(1981)は、シュタンツェル(1979)とジュネット(1973)の差異を評して、「ジュネットのアプローチがより分析的であるのに対して、シュタンツェルのアプローチはより統合的である」と述べたことがある。この観点からすれば、わたしたちのアプローチはシュタンツェルよりはむしろジュネットに近いと言える。なぜなら、等質物語世界的語りの可能な類型を統合的に提示するというよりはむしろ、そうした類型を記述するためのモデルを提示することを主たる目的としているからである。しかし、シュタンツェルにしろジュネットにしろ、一人称の語りあるいは等質物語世界的語りの類型論において弁別されるのは、結局、内実は異なるものの3つの類型にすぎない。このように考えれば、本研究が提案する記述モデルとしての等質物語世界的語りの類型論の方が、少なくとも、プレモダンとポストモダン双方の小説に顕著な等質物語世界的語りの多様性をカヴァーするという観点からすれば、より便宜に適ったものと言える。
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