2004 Fiscal Year Annual Research Report
14-16世紀イギリスにおける書物文化のテクストとイメージによる研究
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14510540
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松田 隆美 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (50190476)
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Keywords | イギリス中世宗教写本 / 西洋中世のベストセラー / 時祷書 / デジタル書物学 |
Research Abstract |
最終年度にあたる本年度は、以下の点を中心に、14-16世紀のイギリスおける、いわゆる「ポピュラー」な書物の特質を明らかにするための調査を進めた。 1.昨年度に開始したThe Kalender of Shepherdsの書物史的研究を継続し、特に16世紀に刊行されたWilliam Powell印行の英語版(慶應義塾図書館所蔵)に関して、その内容を他の英語版および同一版の他機関所蔵本とのあいだで詳細に検討し、詳細な比較対象リストを作成するとともに、本書の制作および流通過程を、16世紀後半のイギリスの社会的、宗教的変化のなかに位置づけた。同時に、本書に登場するいくつかのテクスト(たとえば'twelve ages of man'に関する韻文テクスト)に関して、その変容を同時代の英語による時祷書およびその典拠である16世紀フランスの時祷書および15世紀の写本テクストにまで遡って跡づけ、北フランスからイングランドへとポピュラーなテクストが伝播、変容してゆく過程を具体的に辿った。 2.また14-16世紀のポピュラーな書物に登場する教訓的ナラティブや宗教的モチーフが同時代の他のナラティブ作品(旅行記、ロマンス、死後世界探訪譚)に活用されている事実を検証し、それらのモチーフの当時におけるポピュラリティを正確に捉えることが作品解釈にも重要であることを、Sir Gawain and the Green Knightなどの作品について論じた。 こうした複数の具体例をめぐる詳細な研究によって、北フランスの出版文化が積極的に英語への翻訳及び英語出版を手がけたことで、フランス語の写本を起源とするテクストが翻訳、翻案されて15-16世紀のイングランドへともたらされ、大陸の出版文化に支えられた英語の書物文化が展開していったことが明らかとなった。また、そうしたポピュラーな書物の多くは挿絵入り本であり、同じモチーフや図像が書物以外のメディアにも積極的に利用されたことが、書物の人気をさらに高めたと思われる。
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