2004 Fiscal Year Annual Research Report
巡礼地ダーグ湖の〈聖パトリックの煉獄〉をめぐる文学の研究
Project/Area Number |
14510546
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
三神 弘子 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (20181860)
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Keywords | ダーグ湖 / シェイマス・ヒーニー / ヴィクター・ターナー / 巡礼文学 / アイルランド |
Research Abstract |
1)本年度は、研究の主たる対象を再びHeaneyの‘Station Island'に戻し、平成14年度に検討したアイルランドの現代史と密接に関わるアイルランドの社会的文脈、ダンテの影響にあるヨーロッパ的文脈に加え、この連作詩の宗教的文脈について、<巡礼>という構造の中で再考察した。その際、文化人類学者のヴィクター・ターナーの「リミナリティ(境界性)」と「コミュニタス(原共同体)」という概念の枠組みを当てはめることで、ヒーニー描く詩の語り手が体験するダーグ湖の贖罪巡礼が、より一層明瞭なものとなった。ターナーによれば、「巡礼圏は日常生活の周辺部に形成され、その限りにおいて安定した社会秩序に対して反社会秩序を象徴する。…しかし、この巡礼圏は外在的な社会的勢力や権力によって制度化されるとともに商業資本によって観光化され、ふたたび既成の社会秩序のなかに組み入れられて「構造」化する」とあるが、ヒーニーの場合、贖罪巡礼を経て現世に戻った語り手は、<詩作>という活動を通して、その体験を詩人個人の秩序の中に組み入れ構造化していると考えられる。また、四国遍路に関するさまざまな言説との比較検討をおこなった。 2)平成17年3月に、アルスター大学のDr.Anne McCartneyを訪問し、アイルランドと日本の巡礼に関する討論をおこなった。また‘Literature & Religion : Comparative Study between Ireland & Japan'というタイトルで、修士課程の学生を対象に上記の内容で講演を行った。(2005.3.3.)NHK製作によるテレビドラマ『花へんろ』、映画『旅の重さ』などの映像を示し、昭和期における四国遍路の有り様を理解してもらう手がかりとした。また、高群逸枝の『娘巡礼記』には強い関心が寄せられた。
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