2002 Fiscal Year Annual Research Report
混成語(ピジン、クレオール)を通してみるカリブ海文学の全体像
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14510567
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
恒川 邦夫 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 教授 (60114956)
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Keywords | カリブ海 / クレオール(主義) / 現代黒人文学 / 多言語主義 / 多文化主義 / ポストコロニアル / 仏語圏文学 / アフリカ |
Research Abstract |
3年計画の初年度である平成14年は、計画通り、以下の調査旅行を実施した。 (1)平成14年9月8日〜9月20日まで、メキシコ経由でキューバのハバナに調査旅行を試みた。当該旅行の成果は、a.カリブ海域のスペイン語圏へ初めて足を踏み入れ、英語圏・フランス語圏との違いを実感したこと。キューバはカリブ海諸国の知識人を強くひきつける磁場の一つである。隣国の最貧国ハイチ共和国の民衆は、社会主義革命をなしとげ、教育や医療の面で羨望すべき水準にあるキューバをあこがれる気持ちが強い。しかし、実際に訪れてみると、革命後まもなく半世紀近くになろうとするキューバ社会の抱える問題も肌で感じることができた。b.キューバの作家の文献蒐集は日本にいてはなかなかままならないが、ハバナの街の広場の古本屋で貴重なニコラス・ギジェンの全集を購うことができた。キューバにはクレオール語がないというのが一般的な言い方であるが、そこには現実と把握における微妙な隠蔽があるように思われる。なぜならキューバも黒人の血をもった人々が多数派であり、その現実を社会主義の原則的平等主義の名のもとに巧妙に隠しているように思われるからである。 (2)平成15年2月13日から2月23まで、カリブ海の英領の島ジャマイカ共和国へ調査旅行を試みた。カリブ海の英語圏の島としては最大の島であり、西インド諸島大学のメイン・キャンパスがある。カリブ海の英語圏の島は旧宗主国イギリスに対する強い憧憬と、身近にある英語圏最大の強国アメリカ合衆国の磁場との間で揺れ動いている感がある。ジャマイカの首都キングストンは治安が悪く、外出もままならないところであるが、研究者、作家などとのコンタクトが取れ、「英語圏・仏語圏・スペイン語圏などをひっくるめたカリブ海文学の全体像について、どのように考えるか」というテーマに対して、様々な意見を聴取することができた。また文献蒐集についても、西インド諸島大学キャンパス内の生協書籍部において、有意義な書誌情報を得ることができた。 なお上記2件の調査旅行以外に、平成14年6月18日〜7月1日までマルチニック島で開催されたエメ・セゼール89歳誕生日に招かれて本研究成果について講演した。その報告は平成14年7月15日付け朝日新聞紙上においてなされた。
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