2004 Fiscal Year Annual Research Report
混成語(ピジン、クレオール)を通してみるカリブ海文学の全体像
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14510567
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
恒川 邦夫 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 教授 (60114956)
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Keywords | クレオール / カリブ海 / フランス語圏 / ポストコロニアル / ネグリチュード / ブラックアフリカ / 諸アメリカ / 多言語・多文化空間 |
Research Abstract |
これまでカリブ海のスペイン語圏のキューバと英語圏のジャマイカ、それに大陸部の仏ギアナを調査したので、研究の外枠を広げる意味で、本年度はインド洋の仏海外県のレユニオン島に出かけた。マルチニックの若い世代が20世紀末に発信した『クレオール性礼賛』には、フレンチクレオールがカリブ海の島々とインド洋の島々を結ぶ不思議な糸であることがうたわれていて、何千キロも離れ、歴史的に人的交流などの接触がないにもかかわらず、その二つの地域の住民はそれぞれのクレオール語でお互いに意思の疎通ができると書かれている。その真偽を確かめるのが主たる目的であった。その結果、分かったことは、バンジルクレオール(クレオール語諸島連合)という旗印の下に展開された汎クレオール語運動は、主として、被抑圧者としての大同団結のスローガンであって、言語学的には、明確な根拠を欠いているという事実であった。カリブ海のクレオール語とレユニオン島のクレオール語は似て非なるものであり、実際には、両クレオール語話者間では話は通じない。数年前に、フランス本国がカペスクレオール(クレオール語を課題とした中等教育教員適正証)の実施を認めた際に、マルチニックのクレオリストとレユニオンのクレオリストの問で審査員の選定をめぐって争いが起こったが、今回の現地調査で、それが二つのかなり懸隔のあるクレオール語をあたかも一つの言語であるかのようにして、双方の地域から出てくる受験者を一つの審査員団で行おうとしたことから発生した紛糾であったことが判明した。レユニオンのクレオール語はまだ統一的な表記法も定まっていない。しかしクレオール語の擁護者たちの組織は存在し、さまざまな形でその言語を重要な文化表象言語として使用し、高めて行こうと情熱を注いでいる人々がいることも確認できた。カリブ海との比較研究がクレオールをより立体的に把握するためのステップとなるであろう。
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Research Products
(5 results)