2003 Fiscal Year Annual Research Report
「嘔吐」のディスクルス―メディア社会におけるポストDDR文学のアクチュアリティ
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14510580
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 啓司 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (60173382)
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Keywords | 嘔吐 / DDR / 身体 / メディア / 醜いもの / モデルネ |
Research Abstract |
本研究は,1990年代以降に発表された旧DDR(東ドイツ)出身の若い作家たちに共通する「醜いもの」,「嘔吐を催すもの」への偏執的な志向に着目し,彼らのテクストを一方では従来旧DDRの文学を代表する立場にあった年長者たちの社会批判的文学と,他方では西側のポストモダン文学と対比しつつ,その意義を問おうとするものである。 2年目にあたる今年も昨年に引き続き,ヴォルフガング・ヒルビッヒおよびラインハルト・イルグルを中心に研究を進め,その成果を日本独文学会第2回国際会議(2003年10月18日,東北大学)にて発表した。この発表は,旧DDR社会の解体現象をきわめて濃密な文体で描いた上記2作家のテクストを,ボードレール以来の「醜いもの」美学の系譜に位置づけたものであり,それらが表現主義を思わせる表現の凝縮度,異化効果の多用などではモデルネの前衛文学との連続性を示しつつ,他方でモデルネの唯美主義あるいは前衛主義に対して懐疑的である点で,むしろポストモダン的な西側文学と同一の歴史哲学的地平に立っていることを明らかにした。 またこれと平行して,ボート・シュトラウスについて従来から進めてきた研究を継続し,今年度は激しい議論を呼んだエッセイ「高鳴りゆく山羊の歌」(1993年)について論文を発表した。この作業を通じて,シュトラウス流の崇高と戦慄の美学が,メディア社会批判という西ドイツ的コンテクストから出発しつつも,強度の身体的体験によって表層的な表象体系を揺るがせようとする点で,イルグルやヒルビッヒら旧DDR作家たちの「醜いもの」の美学と接点をもつことが鮮明になった。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 藤井啓司: "身体・カオス・記憶-ボート・シュトラウス"藤井啓司編『身体をめぐる政治-眼差し,技術,ディスクルス-』日本独文学会研究叢書. 017. 93-100 (2003)
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[Publications] 藤井啓司: "Ekel und Gedachtnis - Landschaften in der ostdeutschen Literatur der 90er Jahre"日本独文学会第2回国際会議(2003年10月18日,東北大学). (口頭発表).