2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510581
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中 直一 大阪大学, 言語文化部, 教授 (50143326)
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Keywords | ケンペル / 日本誌 / ドーム / 日本論 / 江戸時代 |
Research Abstract |
本年度の研究に於いて、研究代表者は原典批判版『ケンペル全集』を入手し、従来の版(ドイツ人ドームが編集した18世紀後半の版)と比較対照した。その際、(1)旧版と原典批判版の異同のデータベース化、(2)上記の異同のうち、文化史的に意味のある点のリストアップ、(3)従来の『日本誌』邦訳の批判的検討、(4)原典批判版に基づく邦訳の可能性の検討、の4つの観点から研究を遂行した。その結果、従来のケンペル像を一新するようなことが明らかになってきた。 具体的には、ケンペルの宗教観である。キリスト教文化圏に生まれ育ったケンペルが、江戸時代の日本の宗教をどのように把握して来たかは、非常に大きな問題であるが、従来のドーム版では、原著者ケンペルの意図がねじ曲げられ、編集者のキリスト教観が編集態度に表れてしまったといわれている。すなわちケンペルは日本の宗教に中立的な立場を示したににもかかわらず、後世の編集者であるドームが、その部分を書き換え、日本人の宗教生活の異質性を強調する内容になってしまった。新版を詳細に研究した結果、原著者ケンペルの態度には二面性があることが分かった。すなわち、日本人の宗教生活に対して、非常に中立的な叙述をしている部分と、キリスト教徒の立場から、日本人が邪宗教を信仰していると示唆している部分があることが、判明した。すなわち旧版の編集態度には問題があるものの、しかしまた、ケンペルが全面的に江戸時代の日本を絶賛していたわけではない、ということが判明した。このような知見が、今年度の研究成果である。
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