2003 Fiscal Year Annual Research Report
中国東北部(旧満州)のバイコフを中心とした白系ロシア人文学の研究
Project/Area Number |
14510649
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Research Institution | NIHON UNIVERSITY |
Principal Investigator |
戸塚 隆子 (安元 隆子) 日本大学, 国際関係学部, 助教授 (40249272)
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Keywords | 中国東北部 / 旧満州 / バイコフ / 白系ロシア人文学 |
Research Abstract |
今年度は主にバイコフ文学についてのロシア語文献、及び、バイコフの文学を相対化するためにバイコフ以外の白系ロシア人の文学やその動向について、ロシア語文献の収集、読解にあたった。まだ検討途中であるが、現在までに明らかとなったことは以下のとおりである。 1 バイコフ文学の中の「自然」は伝統的ロシア古典の影響下にあるものであるが、何よりも満州に滞在した結果生まれたものである。顕著なアニミズムはロシアの「森」に見えるものであるが、日本の「森」にも重なるものであり、読者の満州に対する親近感を高める結果となっている。特に、「偉大なる王」には東洋の「山の精」の伝説の影響が考えられる。 2 バイコフの文学には多く、対立的構図が見られる。たとえば、東洋対ヨーロッパ、自然と人間界の対立などである。また、満州の森は同時に近代都市のジャングルとも読み替えることができる。バイコフの文学が単なる珍しい満州の自然描写に留まらず、重層性のある物語展開となっていることが日本の読者を得た理由の一つと考えられる。 3 ハルピンの白系ロシア人文学雑誌「ルベージュ」に集った作家たちの作品と比較してみると、「移民の異国での運命」を扱ったものが多い中で、バイコフの個性は際立っている。「タイガ」での生活を書いたユーリー・ボリスキイの作品と比べてみても、バイコフの作品は1に挙げたアニミズム的な要素が他の作品と一線を画している。 今後はこれらの検討結果を基に、日本における「動物文学」というジャンル形成にバイコフが果たした可能性も視野に入れながら、論文を早急にまとめたい。
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