2003 Fiscal Year Annual Research Report
中世中期ヨーロッパにおける文字文化の展開と法-史料論と構造論の架橋の試み
Project/Area Number |
14520004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (00114596)
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Keywords | 王権 / 文字文化 / 国制史 / 詔書制度 / 裁判 / 共和主義 / シュタウフェン朝 / 中世都市 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に行なった研究状況の確実な把握と史料の収集を基礎として、13世紀におけるイタリア都市及びシチリア王国における実務的文書の発展を具体的に検討した。 (1)まず、申請者が従来から行なっていたシチリア王国の王権における文書利用と法のあり方について、実証研究を行なった。とりわけ、国王裁判所における文書利用を再構成する中で、その複雑な文書制度のあり方が具体的に明らかになった。判決においては、結果に影響を与える総ての行為を文書化し、それを判決の中で逐語的に再現することによって、手続の適正さを事後的に検証することを可能とすることに多大の労力が払われたことを具体的な実例によって説明することができた。 (2)他方において、従来極めて発達した文書行政を行なっていたと考えられてきたシチリア王国の行政的な文書(いわゆるマンダートなど)は、確かに王権や国王役人の行為について事細かに記してはいるものの、必ずしも常に総ての行為を把握しているとは思えないような現象が見られること、文書制度がその意味における体系性、網羅性を持っていたわけではないらしいことが推測されるが、この点については史料の伝存状況の評価の問題もあり、未だ確定的な結論を引き出すことはできない。 (3)このような王権レベルでの文書使用と同時代のイタリア都市における文書制度の比較によって、王権では必ずしも存在しなかった<役職者による共同体の代表>という原則とそれにもとづくもろもろの必要(役職者の行為のコントロール、代表権の範囲の確定等)が、文書使用の密度と特徴を強く規定していることが明らかになった。来年度は、以上の検討成果を基礎として、中世ドイツ都市のうち、特にその先進的なものとの比較を試みたい。
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[Publications] 西川洋一: "書評 Gerd Althoff, Spielregeln der Politik im Mittelalter : Kommunikation in Frieden und Fehde"国家学会雑誌. 116巻9・10号. 157-161 (2003)
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[Publications] 西川洋一: "書評 櫻井利夫『中世ドイツの領邦国家と城塞』"法制史研究. 52. 293-297 (2003)
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[Publications] 西川洋一: "書評 加納 修「フランク時代の仮装訴訟とは何か--メロヴィング朝後期の国王法廷の役割に関する一考察」"法制史研究. 52. 306-309 (2003)
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[Publications] 西川洋一: "Feudalismus und Staat-Zur Entstehung der Systematik der japanischen Rechtsgeschichte"Zeitschrift fur Neuere Rechtsgeschichte. 25巻1・2号. 19-38 (2003)
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[Publications] 西川洋一: "12世紀ドイツ王権の宮廷-その構造をめぐるいくつかの問題"渡辺節夫編『ヨーロッパ中世の権力編成と展開』東京大学出版会. 79-116 (2003)