2004 Fiscal Year Annual Research Report
中世中期ヨーロッパにおける文字文化の展開と法-史料論と構造論の架橋の試み
Project/Area Number |
14520004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (00114596)
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Keywords | 法制史 / 文字文化 / 都市史 / 中世法 / 学識法 / 糺問手続 / 国制史 / 都市条例 |
Research Abstract |
中世中期ドイツ王権、シチリア王国とその宮廷の行政実務並びに中世イタリア都市における文字使用のあり方の研究成果を前提として、今年度は中世ドイツ都市における実務的な文字使用の実態を研究するとともに、それぞれにおける国制・権力構造との関連を明らかにすることに努めた。 (1)ケルン、ニュルンベルクという、ドイツ内でも比較的先進的な都市を対象として、中世後期における都市の証書制度、都市行政におけるそれ以外の文字使用のありかたを、残っている文書をもとにして検討した。イタリアと比較すると史料伝存状況が不利であり、必ずしも明確な対比は出てこなかったが、それでも都市の政治生活・法生活における文字文化の着実な進展を確認することができた。 (2)都市参事会の活動における文書によるコミュニケーションの意味を、裁判、条例制定という局面において検討することを試みた。特に裁判においては、以前として口頭のコミュニケーション形式が規定的な役割を果たしていることが明らかになった。この面の実務では、特に歴史的な発展が遅れていることがわかる。 (3)都市の政治や行政の「受け手」であった市民の基本的な識字教育の状況について、二次文献を用いて調査した。市民層の中にも稀ではあるが大学教育を受けたと見られる者が現われていることに加えて、ケルンでは大司教教会の学校が文字文化がemanateする一つの中心点となっていることが明らかになった。 (4)文書作成のみならず、法実務一般においても重要な役割を果たした都市書記(Stadtschreiber)の出自、リクルートメントの仕方、その具体的な活動に関して調査した。この点についてはまだ網羅的な把握は不可能だが、特にニュルンベルクの都市書記が都市政治においても重要な役割を果たしていることは、イタリアと同様に、都市政治システムにおける、文字文化に親しんだ学識層の重要性の増大を示す。
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