2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14520048
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
石原 全 一橋大学, 大学院・法学研究科, 教授 (60003018)
|
Keywords | 遺伝子情報 / 生命保険契約 / プライヴァシー / 自身について知らないでいる権利 / 情報上の自己決定権 / 個人の尊厳 / 逆選択 |
Research Abstract |
遺伝子情報と生命保険契約に関しては、世界各国の法状況を調査した結果、原則的に、保険会社が遺伝子情報を保険引受に際して要件としたり、既知の遺伝子情報の開示を求めることは否定的に解されている。制定法をもって禁じている例もみられるが、イギリスではイギリス保険協会の実務規約でもって対処している。そして、保健省との合意で、2001年11月1日から一定額以下の生命保険につき5年間、保険者による遺伝子検査結果の利用を停止している。このような取り扱いは興味を惹くが、いずれにせよ、法理論的には、遺伝子情報を生命保険契約の締結に際して保険者は利用できるか、つまり、遺伝子検査を要求できるか、また、保険契約者に既知の自己の遺伝子情報を告知することを要するかが最重要となる。その際に決め手となるのは、遺伝子情報の有する当該個々人への影響である。遺伝子情報は、個々人の生命設計図としてプライヴァシーに関わる。従来、プライヴァシーの保護としては、自己の情報を他人に利用されないことに力点が置かれたが、遺伝子情報においては、自身がこれを知らないでいる権利を人格権(一身専属権)として保護されることが重要となる。これが、情報上の自己決定権であって、個人の尊厳として憲法上保障されるべきものである。既に、2000年6月の「ヒトゲノム研究に関する基本原則について」第14は知らないでいる権利を明定しているし、私法上も民法1条の2にその根拠を求めることができる。さらに、保険制度の目的、差別化の面も考慮に入れると、保険契約締結に際して、遺伝子検査を要求することは認められないといえる。他方、保険契約者側の逆選択の問題が生じる。この点、既知の遺伝子情報の開示をどのような場合に認めるべきか、それとも、一切否定すべきかについては、さらに、私企業としての保険制度の目的も視野に入れる必要がある。
|
Research Products
(1 results)