2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14520048
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
石原 全 関東学院大学, 法学部・法律学科, 教授 (60003018)
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Keywords | 遺伝子情報 / 生命保険契約 / 知らないでいる権利 / 一般的人格権 / 逆選択 |
Research Abstract |
遺伝子情報は科学的にはデータといえるが、そのデータ操作又はその内容開示によって、当該個人の情報上の自己決定権が大きく侵害される。ことに、従来のプライバシー侵害からの保護という側面のみではな<、自身についての情報を知らないでいることが重要となる。これを「知らないでいる権利」として、一般的人格権として法認する必要は非常に大きい。この点は、ドイツ基本法1条、2条の研究によって、わが国でも幸福追求権として根拠づけることができる。なによりも、そこには人間の尊厳の発露があるといえる。この理論を生命保険契約に展開すると、生命保険は経済的リスクを分散するものであるから、危険選択として遺伝子情報による差別化を回避することが重要となる。従来の危険選択としての健康状態、家族の病歴の告知という質問事項とは質的に異なり、遺伝子情報は当該人のみならずその構成家族の青写真でもあることから、告知義務として遺伝子分析を求めることは比較法的にも否定されており、妥当といえる。これを認めることは保険制度自体の基本構造を変えてしまうといえる。既に自己の遺伝子情報を得ている者が積極的に開示するか、または、既得の遺伝子情報を保険者へ告知・通知する義務を定めることについては、逆選択の関係で問題となる。遺伝子情報に関する権利は一身専属性を有するとはいえ、その情報開示の影響は広範囲に及ぶから、人間であることの利益及び幸福は、社会又は学問の利益に優先すると解すべきであり、基本的に消極に解される。国によっては、一定額以上の保険金額については既知の遺伝子情報の開示要求を肯定している。この解決策を採用するとなると、生命保険の定額保険性を再検射する必要があり、定額保険であっても社会通念上合理的を解される限度が存することになり、モラル・リスク理論と関連し、その一環としてさらに考察する必要があることになる。
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