Research Abstract |
本年度は,土地所有権の一内容である利用という側面を明らかにするための研究を行なった。この利用という内容が最も端的に表れる紛争形態の一つとして,相隣関係における土地利用の調整を挙げることができる。そこで,この具体的な紛争事例として,本年度は,(1)他人の土地に排水するために隣地に排水管を設置したり,隣地にすでに設置されている排水管を利用するという場合と,それから,(2)電気,ガス,上水道の配線,配管を隣地に設置したり隣地に存する既設の配線,配管を利用するという場合に着目し,各々の場合において,いかなる解釈方法により,どのような法的根拠で隣地の使用が許されるべきか,という二つの法律問題を考察した。これらの場合は,何れも,他人の土地を利用するという形で隣地の使用が制約されることになるため,土地所有権の社会的機能を検証することができると考えたからである。 かかる研究を遂行するための具体的な手法として,本研究者は公刊裁判例に着目し,裁判実務がどのような紛争類型において,どのような解決方法により,いかなる法的根拠で隣地の使用を許してきているか,について明らかにすることができた。すなわち,上記(1)および(2)において,裁判実務は,隣地の使用を求める側と,この使用が求められる側の損害事情,利益状況を比較または総合的に考量してきている,という解決方法に注目する必要があると考えた。また,そこでの法的根拠を,民法上の相隣関係規定のほか,下水道法11条の類推適用に求める裁判例が多かったが,本研究者はかかる解釈が妥当でないという知見を得るに至った。 なお,上記(1)に関する研究成果を,本研究者の所属機関が発行している大学紀要『青山法学論集』45巻3号1〜63頁(2003)に,また上記(2)に関する研究成果を,同『青山法学論集』45巻4号99〜142頁(2004)に発表した。
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