Research Abstract |
本年度は,前年度までの研究,とりわけ平成15年度における研究の延長線に位置づけられるテーマについて考察した。すなわち,給水や電気・ガスなどの供給(いわゆるライフライン)によって受ける個々人の利益が,住民全体の生活利益や環境利益との関係で,どのように調整されるべきか,すなわち給水等の制限の可否について,裁判例に現れた事案と,これに対する判断を分析し,かつ,考察を試みた。 この給水等の制限は,生存権的基本権と資本主義的基本権との衝突が顕在化するケースである。ここでは,私道に対する私的所有の自由と公的規制との調整,生活利益を伴った隣地の使用による私的所有の調整に止まらず,広く,生存権的基本権が無制約であるかどうかが正面から問われている。 そこで,本研究者は,建築物が建築基準法,自治体の制定による条例,指導要綱等に違反している場合に,水道等の供給事業者による給水等の制限が可能かどうか,について判断している裁判例の分析を行った。裁判例には,生存権的基本権を重視しており,上記の違反が認められたところで,給水等の拒絶を正当化することには消極的である。しかし,その一方で,給水等から受ける事業者の利益も,同程度に尊重しているものが少なくない。したがって,裁判実務は,保護法益が生存権的基本権か,それとも,資本主義的基本権であるかによって区別してきていない,と言うことができる。
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