Research Abstract |
1.本研究は,対象時期を日本の「産業革命期」とし,研究対象として近代日本にとって重要な役割を担った石炭産業と八幡製鉄所を取り上げ,国家・経営・市場の関係について分析する。具体的には,国家と市場の接点に位置する経営に着目して,国家と市場のあり方を,商品・労働市場における経営活動に即して明らかにし,両者を比較検討することによって,近代日本資本主義の体質と実態の一端を明らかにすることを目的とする。 2.本年度は,石炭・鉄鋼市場に関する記述データの収集,及び石炭産業の市場分析を中心に進めた。記述データの収集に関しては,領事館報告,雑誌記事,社史・伝記等の文献,三井文庫所蔵資料,八幡製鉄所所蔵資料などについて,資料調査,記事検索,文献購入,資料複写などを行った。その他に図書館予算によって,国立国会図書館所蔵明治期刊行図書マイクロ版集成のうち,「経済産業」部門の「商業」を購入することが決まり,本研究において利用が可能になる。目下,これらの記述データの分析作業を行っている。また統計データに関しては,石炭データを中心に入力作業を進めている。 3.石炭産業の市場分析に関しては,今年度は筑豊石炭鉱業組合についての分析を取りまとめた。同組合は筑豊の炭鉱業の同業者団体であり,同業者間の利害調整,関連業界等との折衝,政府に対する意見具申や陳情などにあたった。本研究は,「産業革命期」においてまったく自由な競争が展開されたのではなく,自由競争による混乱を避けるために,商品市場では政府ではなく同業者団体による,労働市場では同業者団体でなく政府による,それぞれ制度的補完を必要不可欠としていたことを明らかにした。その結果,筑豊石炭鉱業組合という中間組織の役割が商品・労働の両市場において対照的であるという興味深い新しい知見をえた。
|