Research Abstract |
1961年マウツ&シャラフの『The Philosophy of Auditing』が公刊されて以来,監査論の研究は,様々なアプローチで展開し,発展してきた。ほぼ同時期の1963年,フランシス・L・K・シュー(Francis L.K.Hsu)の『CLAN, CASTE, AND CLUB』も公刊された。シューは人類学者の立場から,アメリカ人,中国人,インド人,日本人それぞれの社会的文化的パターンを研究し,異なる国における人間の行動パターンとその制度との関連性を詳細に分析しており,本著作は不朽の名著といえよう。そして,1990年代スタンフォード大学発の「比較制度分析(Comparative Institutional Analysis)」という経済学の新たなアプローチは,制度分析に対して以前にも増して研究が盛んである。 また,近年,監査制度のモデルとされているアメリカにおけるエンロンなどの会計不正事件の頻発,そして中国でも似たような会計不正事件の多発など,このような監査制度を揺るがす出来事に対して,ふたたび監査制度のあり方が問われている。本研究は,監査制度を考察する際に,社会的アプローチを提唱している。社会的アプローチとは,特定の国の制度を考察する際,制度の歴史的依存性,政治的依存性,文化的依存性などを重視しながら,その制度の有効性を解明することによって,制度の多様性を明らかにし,最適な監査制度の構築を目指している。結果的に監査制度の社会的機能を向上させるというものである。これらの社会的依存性分析は,本研究全体のベースを提供する。 以上のアプローチをベースに中国財務ディスクロージャーと監査制度を考察した結果,中国の監査制度は政治行政主導型であるといえる。このような制度が形成された要因は次の6つがある。(1)中国財務ディスクロージャーと監査制度は徴税法から起点に形成されたものである。(2)歴史から見ると,中国の政治,経済,社会は,官僚主導であり、行政と政治(政党)が一体となって中央集権的である。(3)エリートは国の大学,研究所,行政機関などに集中しているのに対して民間の人材は,この構造に制限されている。(4)人間意識も歴史的・政治的な要件に制限され,国民は政府に依存しがちであるため、自治権などに対応する政治勢力の生成温床はない。(5)市場経済の発展による民間資本はいまだ不十分で,民間主導型の会計監査制度が生成する資金提供源は形成されていない。(6)一般に中国人は儒教を中心とする多元的な道徳倫理感を用いるが、経済のグロバール化につれて国外の思想も中国人の文化的行動パターンに影響をあたえている。
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