Research Abstract |
本研究では,三宅島2000年噴火活動時に観測された自然電位変動から,水の流動に関する定量的な見積もりを行うため,三宅島において各年代に噴出した玄武岩を取得し,流動電位を決定するゼータ電位の性質を実験的に明らかにした.また,三宅島で試料を採取するために立ち寄った神津島において,自然電位マッピングを実施した結果,神津島では約10mV/m(高度1m上昇につき10mV電位が下降する)と三宅島に比べて約10倍であったため,この地形効果の差が,両島で採取した岩石の流動電位係数の差によって説明可能であるかを実験的に検証することも目標の一つに加えた. まず,HCl-KCl-KOH系における,ゼータ電位のpH依存性に関する実験を行った.岩石試料は,細かく破砕し,試料が均質になるようにした.また,条件を変えるごとに,試料と流動させる溶液とが平衡状態に達するように数時間から1日間溶液に浸し,実験結果が変化しなくなる時点のデータを採用した.その結果,各種年代の三宅島玄武岩,神津島流紋岩共に,pH3-10の範囲ではゼータ電位は-10〜-20mVに決定され,さらに塩基性が強くなると共にゼータ電位は大きくなった.また,三宅島玄武岩がpH2付近でゼータ電位がゼロから(さらに酸性の強いところで)正に転ずるのに対し,神津島流紋岩ではゼータ電位はマイナスに留まった.従って,三宅島と神津島の地形効果の相違は,地下水のpHの相違か,比抵抗など他のパラメタの相違によるものと考えられる. Ishido & Mizutani(1981)の実験では,花崗岩,安山岩,斑レイ岩ともに,ゼータ電位がpH6以上で-80〜-100mVに決定され,今回の結果は約1桁小さい値を得た.これまで,Ishido & Mizutaniの結果を用いてゼータ電位を-100mVとして見積もりを行い,例えば,2000年7月14日の傾斜ステップ変動に伴って,総量83m^3の水が岩石に相対的に流動したと見積もってきたが,今回の結果に従うと,約830m^3の水が流動したことになる.一方,Perrier & Froidefond,2003の砂岩や玄武岩の実験結果は,今回我々が得た結果と整合的であった.岩石試料の表面状態の差異が,このような実験結果の相違を生む要因として考えられたため,破砕粒度を変えた実験を行った.その結果,新鮮な表面の割合が多い試料ほど高いゼータ電位を与えるという実験結果を得,ゼータ電位を考える上で新たな要因を考える必要性が明らかとなった.
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