2002 Fiscal Year Annual Research Report
アイヌ民族の住居(チセ)に関する建築史的研究-北海道における平地住居の成立過程-
Project/Area Number |
14550646
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Research Institution | History Museum of Hokkaido |
Principal Investigator |
小林 孝二 北海道開拓記念館, 学芸部・事業部・学芸第二課長・開拓の村課長 (80142090)
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Keywords | 絵画資料 / 平地住居 / 伏屋 / チセ / 堅穴住居 / 写生図 |
Research Abstract |
本年度は、近世以降の絵画資料に描かれたアイヌの住居(チセ)を集成し、これらから窺える近世におけるアイヌの住居と付属施設の研究を進めた。 近世のアイヌの住居を描く絵画・写生画資料は、200点を越える数を確認出来る。これらの資料をあらためて建築学の立場から再検討すると、従来の「定説」とは異なる側面を確認出来た。 『蝦夷島図説(蝦夷生計図説)』については、ケトゥンニ構造が描かれていないことについて確認し、その解釈が依然として、積極的ではないことが指摘出来る。 『蝦夷カラフトサンタン打込図』所載の「カラフト嶋夷家」が、屋根、軒の出、壁立が明瞭なのに対して、「西蝦夷地ソウヤ夷家」はそれらが不明瞭で、伏屋に近い印象を受けることは、『蝦夷島奇観』の事例と同様に、両者の軸組・小屋組などの構造に差異があることを示唆するものと考えられること。さらに両図共に外壁周囲にサクマとは異なる支柱や横木、控え柱と思われるものを設け、これらが外壁の補強を担っている点が指摘できる。 以上のように、本年度の調査分析を通して、絵画資料から知りうるチセの外観、使用材料ばかりでなく、その形態、材料を透して見えてくる合理的な構造架構についての検討が、建築学的な視点による分析の大きな意義と考える。このような視点から、絵画資料から見えてくる18世紀末から19世紀のチセは、平面計画上からは主屋はワンルームを基本としつつ、入り口の附属屋としてのセムばかりでなく、下屋を適宜付加することは必ずしも特殊な事例ではなかったこと。外見的にも、北海道島以外を含めた地域性とその影響や時間軸を重層的に考慮するならば、その形態は、軸組・小屋組を含めた相対的で多様な構造形式が併存し、結果として外見の形態もまた多様であった可能性がある事が指摘できる。これらの点については、北海道開拓記念館研究報告で公表し、同時に、日本建築学会などにおいて発表を予定している。
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Research Products
(2 results)