2003 Fiscal Year Annual Research Report
アイヌ民族の住居(チセ)に関する建築史的研究-北海道における平地住居の成立過程-
Project/Area Number |
14550646
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Research Institution | History Museum of Hokkaido |
Principal Investigator |
小林 孝二 北海道開拓記念館, 学芸部, 研究員 (80142090)
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Keywords | 登呂遺跡 / トイチセ / 伏屋 / チセ / 竪穴住居 / 復元 / 段葦 / 多様性 |
Research Abstract |
本年度は、竪穴住居の実証的復元作業とその結果の考察を中心に研究を進めた。 日本における竪穴住居の復元では、1950年代初めの登呂遺跡が重要な事例としてあげられる。この復元以降、全国各地の竪穴住居は「登呂型」に倣うものが多数を占めることとなった。近年、研究動向に変化が見られるものの、建築史家相互の議論は、必ずしも深められていない。 建築学からの竪穴住居の考察において、実証的な復元考察は重要であるが、一方で、影響力は大きく、慎重な対応が望まれる。 小林は、2003年秋、北海道天塩郡天塩町川口基線遺跡において実施した擦文文化期の竪穴住居の復元作業に参加した。復元における筆者の想定した前提条件は、1,独立した仮設足場などを必要としないスケールとし、補修においても仮設足場を設ける必要のない工法。2,具体的には、柱、梁、サスなどについても、2人程度で移動、建込み、架設が可能なものとする。3、内部空間の有効活用、温度環境の改善を計るため、屋根勾配を緩いものとする。である。以上から、外観をトイチセに近い復元形態を想定していた。全国に所在する足場や建設機械を使わなければ実現不可能な復元竪穴住居の轍を踏むことは避けることが出来たと同時に、緩勾配屋根によって、無駄な屋根裏空間の削減が計られたものと考える。 多くの竪穴住居遺構では、「物証」はほぼ皆無と言って良い。先史住居の復元作業でも、基本的に、有史以降の資料によって確立した成果を援用する形で、先史住居を想定しているのが現状であるが、原初的な住居について考える場合、その多様性、地域性、極言すると個別性も同様に大きな要素であった段階が想定出来るのではないかと考える。 今回の復元作業によって、図らずもアイヌの住まい(チセ)が北海道の先史住居のイメージに強く重なっていることを確認出来た。と同時に、「登呂型」住居の全国的な蔓延現象に類似する文脈で、北海道の「チセ型」住居の蔓延も進んでいる事も指摘したい。
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