Research Abstract |
本研究は,冬期の温暖化による影響が顕著に発現しやすいニホンナシを対象に行った。 1.冬期の温暖化に伴う花芽異常の発生限界条件の解明 (1)ブラジルにおける現地調査 2002年11月末〜12月初旬にブラジルにおいて,海外共同研究者と実際の発生状況と園地や栽培条件,地形条件,気象条件等の調査を行うとともに,気象観測データや既存の資料,現地での試験成績について検討・解析を行った。RS州カングスーの果樹農家の調査では,標高差20m程度の斜面の上下の微気象の違いにより,花芽異常の発生に明らかな差異が観察され,それは園地内で計測した低温遭遇時間の多寡の差異で説明できた。 (2)花芽異常の再現試験 露地で7.2℃以下の低温遭遇時間が450時間に到達した後,ニホンナシ「幸水」,「豊水」の鉢植え樹を(1)の対象地域を想定した冬から初春期の日較差が非常に大きい気温変化に遭遇させることで,花芽異常の再現試験行った。低温遭遇時間450時間は,現地の30年間の気象観測資料を基に研究代表者が解析した現地果樹園の平均的な低温遭遇時間を与えている。自発休眠の覚醒には,通常800〜1000時間は必要されるのに対し,このように不十分に低温遭遇させた後,昼15〜30/夜5〜10℃の日較差の大きい環境下に置くことにより,現地での開花条件と類似した反応,即ち「幸水」と「豊水」での開花率の違いや異常な花芽の発生などの現象が観察され,再現はほぼ可能となった。 (3)開花その他の落葉果樹生態情報データベースの構築 全国規模で過去30年間以上の開花や収穫に関する生態情報データベースの構築に向けて,鋭意資料を収集・解析中である。先ずニホンナシ「幸水」,「豊水」について,温暖化や都市化の影響を解析し,地域性や樹種・品種毎の特徴を明らかし,学会(日本農業気象学会,園芸学会)に報告するとともに,国際研究集会「Temperate Fruit Trees Adaptation in Subtropical Areas」に招待され,「Effects of global warming on temperate fruit crop production -Yearly variation of flowering date for Japanese pear tree in Japan」を講演した。今後は,「二十世紀」や他の落葉果樹のデータ収集も行う。 2.冬期の低温量不足に対応した制御技術の開発 水の気化熱を利用した細霧冷却法と被覆資材の組み合わせにより,積極的に樹体温の低下を図り,自発休眠の覚醒促進や開花時期の制御効果を試験した。開花に関するデータは未だ未開花のため次年度に報告するが,処理花芽の温度の計測結果から自発休眠の覚醒効果が高い温度帯域に維持する時間が,無処理の対照区に比較し長くなり,休眠覚醒に必要な低温量の確保に有効であった。
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