Research Abstract |
表情筋は,咀嚼,コミュニケーション,顔貌,心理的健康などの我々が日常生活を営む上で重要な機能に深く関わっている.つまり,表情筋の機能の回復および向上を図ること(表情筋筋機能療法)は,顎顔面部の形態,機能を改善するのみではなく,心理的なリハビリテーションにも大きな効果をもたらすものと考えられる.そこで本年度は,表情筋筋機能療法を顎口腔系および心理的リハビリテーションへ応用するための基礎データを採得することを目的とし,健常有歯顎者9名(23〜29歳;平均26.6歳)を被験者として以下の実験を行った.実験は,被験者をアップライトに保ち,以下の被験運動(1)口角を後方へ引く動作,(2)口角を挙上する動作,(3)軽度,中等度および強度の咬みしめ,(4)タッピング,(5)開閉口運動,(6)ガム咀嚼)をさせ,その時の筋活動電位を両側の頬筋,口輪筋,咬筋(閉口筋)および顎二腹筋前腹(開口筋)から導出記録した.その結果,(1)開・閉口運動,タッピングおよびクレンチングでは,頬筋に筋活動は観察されなかった.(2)ガム咀嚼時,頬筋,口輪筋はともにリズミカルな活動を示し,ほとんどの活動は開口相に認められた(99.1±1.7%).(3)頬筋の筋活動量は同側が反対側よりも有意に大きかった(P<0.05,Man-Whitney test).(4)咀嚼されるガムの量の増加に伴い,すべての筋で活動が増大した.特に,咬筋および頬筋に著明な増加が認められた.(5)口角を外側へ引く運動では,頬筋に著明な筋活動が観察された.以上の結果から,口腔周囲に位置する表情筋の一つである頬筋は,下顎運動自体を直接補助するような活動はしないものの,表情の表出,咀嚼などの機能時に活動することが明らかになった.したがって,表情筋筋機能療法を効果的に行うには,日常生活における表情筋の賦活の活用が重要であることが示唆された.
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