Research Abstract |
口腔周囲に位置する表情筋は,顔貌や表情の表出のみならず,咀嚼,嚥下,発音あるいはコミュニケーションなど,我々が日常生活を営む上で重要な機能に深く関わっていることから,表情筋の機能の向上あるいは低下した機能の回復を効果的に図れれば,顎顔面部の形態および機能を改善できるばかりか,精神面の治療効果も期待できる.本研究の平成14年度の結果から,効果的な表情筋筋機能療法には,日常生活における表情筋の賦活が重要であることが示唆されている.そこで本年度は,表情筋筋機能療法に有効な被験食品を開発することを目的に以下の実験を行った.健常有歯顎者11名(23〜29歳;平均26.6歳)を被験者とし,テクスチャーの異なる2種の被験食品(ガムおよびピーナツ)を咀嚼させ,その時の筋活動電位を両側の頬筋,口輪筋,咬筋(閉口筋)および顎二腹筋前腹(開口筋)から記録した.その結果,以下のことが明らかになった.(1)ガム咀嚼時およびピーナツ咀嚼時ともに,頬筋はリズミカルに活動し,そのほとんどは開口相に認められた(99.1±1.7%,97.8±2.1%).この結果は,口輪筋でも同様であった.(2)頬筋の活動開始時間は,ガム咀嚼よりもピーナツ咀嚼の方が早かった.しかし,活動終了時間は,被験食品による違いは認められなかった.(3)頬筋の活動持続時間は,ピーナツ咀嚼がガム咀嚼よりも長かった.(4)口輪筋の活動開始時間,終了時間,持続時間は,被験食品による違いは認められなかった.(5)両筋ともに,被験食品量の増加に伴い筋活動量は増加し,咀嚼側が非咀嚼側よりも有意に大きかった(p<0.05,Man-Whitney test).以上の結果から,頬筋の活動は,被験食品の量とテクスチャーに影響を及ぼされることが明らかとなった.しかし,口輪筋の活動は,テクスチャーの違いよりも食品量に,より影響されることが示唆された.
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