Research Abstract |
本研究は,中高年を対象として,死と正面から向きあってたくましく「生きる力」を育むヒューマン・ケアリングを基盤とする死の準備教育プログラムの開発を最終目的としている。研究の初年度にあたり,(1)死の準備教育の実態把握(2)終末期患者の「生きる力」とその力を「育む力」に関する文献検討,(3)在宅看護を中心とした「生きる力」と「育む力」の明確化の3点に取り組んだ。 死の準備教育について,理論的背景や発展過程について理解を深めたうえで,我が国における死の準備教育の実態を把握する目的で,インターネットや市民集会等への参加,死の準備教育を行っていると考えられる教育機関や行政機関への調査等の資料収集を行った。その結果,市民の生涯学習の機会は年々増加しており,わずかずつではあるが,自らや近親者の死に備えることをめざした死の準備教育の機会も増加していることがわかった。しかし,死をタブー視する社会的傾向,健康志向の市民のニーズが影響し,死を前面に出した教育には困難があり,「生きがい」や「健康」との関連の中で死の準備教育を行う傾向があることが推察された。教育機関に限らず,「生と死を考える会」や尊厳死協会に代表される市民活動,健康教育の一環として行われる行政の活動などがみられ,詳細な実態把握に向け,調査を継続している。一方,死の準備教育を構築する基礎となる,終末期患者の「生きる力」とそれを「育む力」については,先行研究の中から類似する概念として終末期患者の希望と死の受容,ケアリングを抽出して検討した。その結果,死を前にしてたくましく「生きる力」は,自己の存在を失うという究極の喪失を認めたうえで希望を維持する力であると考えられた。希望を育むケアは,人や自然とのつながりを体感する支援や,人生の目標を明確にする支援が,文献から示唆された。この成果に基づき,在宅看護における終末期患者の「生きる力」を明らかにする調査では,思い出を共有し精神の高揚をはかる支援,存在価値を肯定する支援が見出され,個別性と共通性の明確化に向けた調査を継続している。
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