Research Abstract |
本研究で,北海道における社会資本の蓄積と産業クラスターの形成から経済空間の構造を解明することを目的とした.そのために,まず交通を中心とするインフラの整備状況と,産業集積の現状をみた.その結果,公共投資による社会資本ストックとして,北海道では広範囲で交通インフラが整備されているが,その産業生産誘発効果は低下していることがわかった.また,その中で道央地区は他地区よりも公共投資による生産誘発が大きく,また他地区への投資も道央地区の生産誘発に結びついていることがわかった. 交通インフラなどの社会資本整備は,それによって築かれた良好な環境の中で生産誘発がなされることが期待される.ところが,前述したように公共投資の生産誘発効果は近年低下しており,交通インフラなどの整備が道内の産業発展に与える影響は減少していた.さらに,第三次産業の中間投入比率増加は,道内で経済のサービス化現象が進展しつつあることを示しており,公共投資の産業全般に対する経済的波及効果は低下していた. このような状況において,労働力に対する付加価値が高い経済活動が,道央地区,特に札幌において展開されていた.この活動はITを中心とするものであり,その中核は,近年「サッポロ・バレー」と呼ばれている.都市内部のアメニティと,人材間の近接性の高さ,産学官の連携のとりやすさなどを利点とする当該地区では,連続したイノベーションの創出を可能とする知的クラスターが民主導で形成されてきた.これは社会資本による環境整備により,国際競争力の高い産業が集積した事例としてみることができるが,北海道全体として,このような事例は少ない.交通インフラのような社会資本整備は,札幌と他地区との近接性を上昇させ,札幌の経済圏を広範囲に拡大させることで,より大きな経済効果を生むのではないかと考えられる.
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