2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14580080
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
田中 恭子 埼玉大学, 経済学部, 助教授 (70272276)
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Keywords | 出生率 / 女性の労働力率 / 保育園 / 社会民主主義福祉国家 / 残余主義福祉国家 / スウェーデン / アメリカ / ボランティア |
Research Abstract |
先進国における出生率の国際比較によれば,1990年代にはイタリア・ギリシャ・スペインなどの南ヨーロッパ諸国での低出生率に対し,スウェーデンなどの北欧諸国で比較的高い出生率が出現し,南北ヨーロッパでの出生率に見られた伝統的な地域差が逆転したことが明らかになった.この出生率の逆転は,女性の労働力率が高い国ほど出生率が高くなるという,従来の人口経済学モデルが仮定してきた女性の労働参加が出生率に与えるマイナスの影響は先進諸国においてはもはや機能しなくなり,女性が仕事と子育てを両立できる環境が整備されている国ほど出生率を引き上げている傾向が認められた.本研究では,エスピン・アンデルセンの福祉国家の類型化を参考にしつつ,社会民主主義福祉国家の代表として,スウェーデンと,そして自由主義的(残余主義的)福祉国家の代表として,アメリカ合衆国を取り上げる.両国とも先進諸国の中では出生率が置換水準あるいはそれに近い水準まで近年に上昇したことがある国である.この両国の保育サービスの提供の現状と女性の就業に関して,大都市における空間構造の中で,空間的な制約を比較考察しながら,子育てに関する福祉国家の役割を比較検討した. スウェーデンではストックホルムの郊外のナッカ市において,保育園の立地調査を行った.スウェーデンではコミューンが保育サービスを提供する責任を負っており,子どもの自宅のそばに保育園を配置することが法律で義務付けられ,一般に保育園までのアクセシビリティは大変良い.特に計画的に建設された集合住宅の場合は,職場や買い物なども含めた,アクセシビリティが整備されていた. アメリカのオハイオ州コロンバス(フランクリン郡は人口約100万人)において,保育園の立地の調査を行ったが,子育てに関することは私的・個人的な問題を考えられているこの福祉国家では,スウェーデンやフランスのようなユニバーサルな公的保育サービスは存在しない.あくまで民間による保育サービスが市場によって供給されているに過ぎないので,価格が高くサービスの質が低い傾向が問題点として指摘されている.大都市圏の空間構造としては,郊外にチェーン展開する営利目的の保育園が多く立地しているが,市内の低所得者層の居住地域には非営利組織の保育園が立地し,保育に関してもボランティア・セクターの活動が活発な地域であった.ヘッド・スタート・プログラムと呼ばれる早期教育プログラムの施設も市内に集中している.アメリカでは居住地のセグリゲーションに照応する形で,保育サービスも「二つの世界」に隔絶している.
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Research Products
(2 results)