Research Abstract |
数学的一般化の視座から,学習過程を記述する理論的枠組みと教授過程をデザインする規範的枠組みの開発が本研究の目的である。すなわち,本研究では,数学的認識を一種の記号過程とみなしながら,記号それ自体を対象化する認知メカニズムを明らかにし,この記号の対象化がその後の一般化にとって,どのような意味を持つかを分析することをねらっている。具体的には小数除と分数除を題材としながら、両者の一般化の質的差違をまず明確にした上で,さらに分数除に関する学習過程を新たにデザインし,一般化の評価手法を開発する。 こうした研究の一環として,本年度の研究では,「一般化」の理論的枠組みについて,オーストリアの数学教育研究者であるDorflerの一般化モデルに注目しながら,次の2つの視座からその精緻化を図った。その1つは,一般化を推進する認知プロセスを明確にすることである。2つめは,「記号の対象化」に続く2つの質的に異なる一般化の存在を指摘しながら,モデルの改変を試みることである。1点めについては,「拡張されたメタ認知モデル」を新たに提案した上で,Dorflerモデルを認知的に補完した。2点めについては,質的に異なる2つの一般化を「内包的一般化」と「外延的一般化」として理論化した。内包的一般化とは,未知の対象を既有の知識に同化しながら,既知の対象を普遍化する一般化であり,「自然数による除法」の発展として分数除を理解する場合や,小数除の理解がそれにあたる。一方,外延的一般化は,未知の対象を既有の知識に同化させることができないため,新たな知識を構成し,その知識の下で,既習事項を統合する一般化である。分数除をかけ算の特殊として処理する場合がその好例であり,分数を有理数に発展させるのであれば,わり算をかけ算に合理化する方向が選択されなければならない。本研究では,一般化にかかわるこうした区別を「一般化分岐モデル」として定式化した。「教育課程実施状況調査」では,小数除の立式に比して,分数除の立式に関する低い通過率が問題視されているが,こうした乖離は2つの一般化の質的差違に起因するものである,と本研究では分析した。
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