Research Abstract |
チャットによる多人数対話の分析をすることにより,話者交代システムにおいて,話者が第一義的指向するのは,タイミングではなく,どの発話(部分)に対して次の位置を占めるのかを表示するためである可能性が示唆された.対話において,隣接ペアの第一部分に対する第二部分は,その隣接性により,特別な意味を持つことが知られている.第一部分に対する第二部分は,その位置により関連していることが前提とされ,第二部分の不在は,有標な事態として理解される.対面対話では,話者交代と隣接ペアが重なる事態も多く,目立たないが,チャットによる多人数対話においては,チャットシステムを利用する,多人数である,という二重の意味で,話者交代システムが対面対話のように働くことができない.もし対話において話者交代システムが第一義的であるならば,ターンを短かくするなどそのことを補完するような手法が多く観察されるはずであるが,そのような手法が便われる場面は多くはない.チャットによる多人数対話においては,むしろ,話者は,他の話者の中で誰の,どの発話内容に対して次の位置を占めるかを,コピーアンドペースト,単語(名詞,固有名詞)をリソースとして表示するとともに,将来の話者に対しても,記号により,次話者や内容の指定することがほとんどである.この考察が正しいとすると,対面対話において,何に対して応答すべきかが予めわかっている場合は,タイミングが問題にならないことが予測されるとともに,本研究プロジェクトで作成した対話状況を共有可能なチャット対話システムは,タイミングだけを重視するあまりに,対話の円滑な進行を妨げていたことが説明できるようになる.
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