2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14580425
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 初男 九州工業大学, 大学院・生命体工学研究科, 教授 (00108664)
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Keywords | 海馬 / 記憶 / 確率共鳴 / ニューラルネットワーク / LTP / LTD / STDP / 自発活動 |
Research Abstract |
本研究計画の目的は、海馬を模倣した記憶モデルを作ることである。海馬のCA3とCA1領野を模倣した神経回路モデルを用いた。これら2層の神経回路は、それぞれ256個の錐体細胞と25個の抑制性介在ニューロンで構成されており、シャファー側枝シナプスを介して結合されている。CA3層は、自発活動を起こし、その時空活動は複雑である。CA1層は自発的に活動を起こすことはなく、CA3層の自発活動を受け、CA1錐体細胞の膜電位にゆらぎ(雑音)が生じる。この雑音の強さはシャファー側枝シナプス結合の強さに依存する。また、CA1層は、貫通路からも、しきい値を超えない信号を受ける。 貫通路信号に対するCA1層の応答の信号対雑音比(SNR)は、CA1錐体細胞に生じた雑音の強さに依存し、典型的な確率共鳴の特性を示した。また、強化したシャファー側枝シナプス結合で表現した記憶パターンを,確率共鳴によって想起することができた。すなわち、確率共鳴によって生じたCA1錐体細胞の発火の空間パターンは強化されたシャファー側枝シナプスの空間パターンと一致した。 CA3およびCA1層のエッジの影響を少なくするために、各層の錐体細胞と介在ニューロンの数をそれぞれ1024個と100個に増やした。その結果、SNRのシャファー側枝結合強度依存性は上記の256個の錐体細胞から成る小さな神経回路の場合とほぼ同じであった。これは、256個の錐体細胞から成る神経回路がサイズとしては十分で、エッジの影響もそれほど大きくないことを示唆している。 LTPとLTDは共に錐体細胞内のCa^<2+>がトリガーとなって起こる現象であり、Ca^<2+>濃度に2つのしきい値が存在する。本CA3-CA1モデルを用い、自発的なδリズムが苔状線維からの入力に対してカオス的に応答するとき、シャファー側枝シナプスがLTPを起こすようにできた。しかし、このモデルには、NMDA受容体チャネルを通して流れ込むCa^<2+>電流が陽には表現されていない。現在、NMDA受容体チャネルのモデル化を試みている。 来年度以降の研究計画を念頭に置き、STDPによるCA3層の自発リズム活動と興奮伝導の制御に関する予備的研究も行った。たとえば、高周波のバースト刺激を加えた部位に興奮伝播のソースが形成され、刺激を止めた後も、しばらくの間保持されることが分かった。これは、CA3層の各領域に対応したCA1層の記憶パターンをある時間秩序をもって想起できる可能性を示唆している。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] M.Yoshida, H.Hayashi, K.Tateno, S.Ishizuka: "Stochastic resonance in the hippocampal CA3-CA1 model : A possible memory recall model"Neural Networks. 15. 1171-1183 (2002)
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[Publications] M.Yoshida, H.Hayashi: "Regulation of spontaneous rhythmic activity and preserved stimulus dependent pattern by STDP in the hippocampal CA3 model"Proceedings of the 9th International Conference on Neural Information Processing. 1. 357-371 (2002)
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[Publications] 吉田基治, 林 初男, 石塚 智: "海馬CA3領域の神経活動の伝播を用いた時系列記憶モデル"電子情報通信学会技術研究報告(NLP). 101・613. 1-7 (2002)
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[Publications] 斎藤 透, 林 初男, 吉田基治, 石塚 智: "海馬CA3神経回路モデルのリズム活動に依存したシャファー側枝シナプスの強化"電子情報通信学会技術研究報告(NLP). 101・613. 17-22 (2002)
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[Publications] 林 初男: "脳のカオスと情報処理"エヌ・ティー・エス. 21 (2002)