Research Abstract |
イソクエン酸脱水素酵素(ICDH)は多くの生物から単離されており,細菌由来のICDHのほとんどは補酵素としてNADP^+を要求する.これに対し,我々が見出した硫黄酸化細菌Acidithiobatillus thiooxidans由来のAt-ICDHはNAD^+依存型である.また本酵素はアミノ酸配列や反応機構など細菌由来の3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(IPMDH)と類似している.本酵素の結晶構造解析を行いNADP^+依存型ICDH,及びNAD^+依存型IPMDHとの比較検討を行うことにより,基質認識機構,補酵素認識機構の解明に役立つと思われる。そこで本酵素を精製し,結晶化及び結晶構造解析を試みた。その結果,ICDH-NAD^+複合体の状態で,四角両錐の結晶が得られ,この結晶で1.9Åまでの解析データが得られた。基質の認識部位では,大腸菌のNADP^+依存型ICDHと同様にSer113,Asn115が重要な残基であることが確認された.今回の結晶解析により,新たにニコチンアミドのリボースの酸素がT105の主鎖窒素に配位,固定されていることが分かった.さらにC-dループと呼ばれる部分においてNADP^+型とNAD^+型の間に相違が見られた.次に基質認識に関与していると思われる残基Ser113,Asn115をそれぞれGlu,Leuに,補酵素認識に関与していると考えられる残基Lys344,Tyl345,Tyl391をそれぞれAsp,Ile,Glyに置換する部位特異的変異を行い,変異酵素の作成を行った.S113E変異酵素の作成が確認できたので,酵素精製及びイソクエン酸に対するKm値を求めた.その結果,野生型酵素と比べて比活性が0.8%にまで低下し,Km値は40倍に増加していた. 酵母由来のICDHは臨床検査薬として利用されている.At-ICDHは熱安定性,pH安定性や基質イソクエン酸に対する高い親和性で酵母由来ICDHよりも優れていたので,臨床診断酵素として実用化されることになった.
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