2003 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における欧米少年保護思想の受容の様相-世界的な潮流のなかでの家庭学校-
Project/Area Number |
14591002
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
二井 仁美 大阪教育大学, 教育学部, 助教授 (50221974)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 あおい 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (00343260)
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Keywords | 近代日本 / 感化教育 / 少年保護 / 児童自立支援施設 / 留岡幸助 / ヴィッヘルン / ラウエハウス / 家庭学校 |
Research Abstract |
本研究は、少年保護をめぐる世界的な潮流における近代日本の感化教育の位置と特質を考察することをめざして、日本の感化教育の近代化に画期的な役割を果たした留岡幸助(1864-1934)に焦点をあて、彼と彼が創設した家庭学校による欧米少年保護思想の受容の様相を解明することを目的とした。 具体的には、次の成果と知見を得た。まず、留岡幸助が収集した文献を継承保存する東京家庭学校資料室所蔵の欧文感化教育関係文献の目録化を図り、その史料的特徴を検討した結果、留岡が精読した書物のいくつかを特定することができた。その内、スティーブンソンの著書『祈りと労作』(Working and Praying)に叙述されたドイツの感化院ラウエハウスの創設者ヴィッヘルンの言説(「愛こそ堅固の墻壁」)は、留岡幸助が家庭学校設立時に「家族舎制」の意義について主張する際にしばしば引用した文言であり、これは家庭学校をはじめとする近代日本の感化院の形成を考える上で重要な理念であることが明らかになった。次に、ドイツのラウエハウスに関係する文献調査と聞取調査の結果、ラウエハウスでは「愛こそ堅固の墻壁」という理念の下、「家族舎制」を採用してはいたが、「家族舎」の構成員は男性のみであることも確認された。つまり、留岡は「家族舎制」の理念としてはスティーブンソンが論じるヴィッヘルンの言説に頼りながらも、具体的実際的な「家族舎制」のイメージとしてそこに女性職員を配置することについてはアメリカで見た感化院の「家族舎制」にヒントを得ていたということができるかもしれない。しかしながら、こうしたアメリカの感化院における「家族舎制」は、源流としてはやはりドイツのヴィッヘルンの言説やラウエハウスでの実践に負うところが多かったものであり、留岡による近代日本の感化教育理念の形成は、現象としてはアメリカの感化院に刺激されながらも、その根幹たる思想として、源流たるドイツに遡ろうとした点に特徴がある。
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