2002 Fiscal Year Annual Research Report
ミラノ大聖堂のトリヴルツィオ大燭台とルネサンス期の鋳造作品との比較研究
Project/Area Number |
14651013
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
若山 映子 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70107126)
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Keywords | 七枝の燭台 / トリヴルツィオ大燭台 / 中世工芸 / ルネサンス彫刻 / 黄道十二宮 / エッサイの樹 / 図像 / 様式 |
Research Abstract |
トリヴルツィオ大燭台に関する最新の研究書を中心に、中世からルネサンス期にかけての彫刻、工芸、デザイン、写本関連の研究書と研究に用いる機器を入手し、現地研究者とともに作品観察をおこなった。研究書掲載の図版では捉え難い作品の細部や唐草文に複雑に絡み合う多くの人物像、動物、想像上の生物などの立体的な関係は実地調査によって初めて明らかになった。 ユダヤ教の祭具のひとつである七枝の燭台の形式を踏襲しながらも本燭台は、新約・旧約聖書の物語、美徳悪徳の寓意・黄道十二宮、怪物、怪獣などの極めて多彩な図像によって構成されている。七枝の先には複数の燭台が付いて「エッサイの樹」を連想させ、伝統的な作例とは形状を異にし、その大きさも群を抜いている。その個々の図像要素は本作品が制作されたと一般に言われている1200年頃の他の作品にも見出されるが、実地検分によって以下のことが確認された。 (1)玉座の聖母子と他の部分との様式的な相違。 (2)裸体人物像には、1200年頃の他の作品とは一線を画する的確な解剖学的観察の結果が窺がえる。14世紀の作品に似た人物像も見られるが、特にアダムとエバ像などの細部の筋肉のつき方や手の表現は15世紀以降の作品にも比肩される。 (3)燭台の脚部を構成する虐待される龍の顔面は、顔面神経の刺激に反応した筋肉の動き、耳や鼻の形が表現されている。さらに龍の身体と尾、怪獣が構成する唐草文風の膨らみをもった装飾部分の空間的な豊かさは、植物の枝が複雑に絡み合う構図をもつレオナルドのサーラ・デッレ・アッセ(ミラノ、スフォルツァ城博物館)に等しい芸術性を示している。 これら諸要素は、本作品を1200年頃に位置付ける既成仮説に対して反論の可能性を示唆する。しかし新たな仮説提案のためには、さらに広範にわたった調査研究を要する。今回は入手できなかった他の多くの写本挿絵との比較調査も実施の予定である。
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