2002 Fiscal Year Annual Research Report
コミュニケーション場面における視聴覚統合過程を研究するための齧歯類モデルの確立
Project/Area Number |
14651017
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岡ノ谷 一夫 千葉大学, 文学部, 助教授 (30211121)
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Keywords | 齧歯類 / デグー / 入れ子構造 / 音声コミュニケーション / オペラント条件付け / 聴覚曲線 / 音声レパートリー / 求愛の歌 |
Research Abstract |
一般に齧歯類は嗅覚にもとづいたコミュニケーションを行う。このため、視聴覚信号を主な媒体とするヒトのコミュニケーション行動のモデルとしては適切さを欠く。南米の齧歯類デグーは、昼行性・群居性で、可聴音域のコミュニケーション信号を多用し、視覚も発達した動物である。この動物を対象に、視聴覚機能およびコミュニケーション機能・認知能力を調べ、ヒトの視聴覚統合を研究するモデル動物としてふさわしいか否を検討することが、この研究の目的である。 初年度は、2つがいのデグーを飼育し、飼育環境を整備して日常的な行動を観察した。デグーの日常的な発声信号を録音解析し、状況に応じた発声レパートリーを調べたところ、少なくとも9種類の音声が同定された。この中には、いくつかの音声を組み合わせて求愛の歌も含まれる。デグーはこれらの音声を機能的に用いている、すなわち、特定の文脈で特定の音声を出すことがわかった。さらに、ある種の音声は、特定の身振りと同時に発せられた。また、発声制御の自由度を知るために、発声のオペラント条件付けを試みたが、デグーにとってこれは難しいようであった。しかし、この訓練の過程で、砂浴び容器、餌皿、おもちゃのボールを順次重ねる行動が自発的にはじまった。こうした行動は、階層的なシンボル操作の前段階とも考えられ、デグーが高い認知能力を持つことを示している。 さらに、デグーの基礎的な聴覚能力を測定するため、無条件反応を指標とした聴覚測定を行った。結果、一般の齧歯類とは異なり、2-4kHz程度の中音域がもっとも閾値が低く、全般にヒトの聴覚曲線に類似したデータが得られた。 これらの結果より、デグーを視聴覚統合のモデル動物として研究するための基盤が確立したと言える。次年度は、神経科学的な手法も用いて、研究を進展させていく予定である。
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