2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14651046
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
遠藤 徹 同志社大学, 言語文化教育研究センター, 助教授 (10309073)
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Keywords | 沈黙の春 / サイボーグ研究 / サイケデリック・ムーヴメント / 薬害問題 / 食品添加物 |
Research Abstract |
本年度は、初年度に当たるため、農業・食品加工業・医薬品業等各分野の主として二十世紀における発展史の見取り図を得ることを目標とした。各論的には、六〇年代という時代と化学物質の関係について調査を行った。足がかりとしては、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を選んだ。本書は、一般的には農薬等の化学物質による「環境汚染への警告」の書と捉えられているが、よく読むとカーソンの同書執筆動機は、むしろ化学物質による遺伝子レベルからの「人間の変容への驚き」にあることがわかった。カーソンは告発の怒りによってではなく、人間が変わってしまうことへの脅えに突き動かされていたと解釈できるわけである。そして、これは初めて化学物質の大量生産に直面した時代特有の精神のありようのひとつの典型例とみなしうる。つまり、六十年代とは化学物質による身体の変容を目の当たりにし、これをいかなるものとして捉えるかに腐心した時代だったということだ。カーソン流の否定的な捉え方としては、薬害問題、食品添加物問題、化学物質過敏症の発見などがあり、逆に肯定的な立場としては化学物質投与から始まったNASAによるサイボーグ研究や、若者の間での合成ドラッグの流行などがあげられる。やがてこのような意識は、七〇年代に至って、公害問題の表面化により否定的な見解へと染め上げられていくわけだが、六〇年代においては化学物質に対する人々の意識はまだ賛否両論に揺れ動いていたことがわかる。(この考察は、京都大学人文研における共同研究『六〇年代の研究』にて十四年十二月に発表した)
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