2003 Fiscal Year Annual Research Report
近代東アジア諸国・地域における日本社会教育の伝播・受容と変容に関する研究
Project/Area Number |
14651055
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
牧野 篤 名古屋大学, 大学院・教育発達科学研究科, 助教授 (20252207)
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Keywords | 近代 / 東アジア / 社会教育 / 植民地 / 実業教育 |
Research Abstract |
本稿は、1890年代から1920年代を時間的なパースペクティブとして、中国・韓国・台湾における、日本の社会教育概念の伝播と受容、その具体的な活動・行政の展開をとらえようとする試みの2年目の研究実績概要である。 日本の周辺諸国・地域において、近代国家・地域建設のための学校教育普及のドライブ要因として導入された日本の社会教育の概念と実践とは、日本の強権的圧力と植民地統治が強化される1910年代以降、民衆の生活改善と家計の向上、そのための就労保障と産業の発展のために、利用され、普及するという、実業教育への強い志向性を持つものへと展開していることが確認された。それは、中国における共和政府、韓国・台湾における日本の総督府が、それぞれに、民衆を統治し、国家や植民地としての統制・統合を保とうとする思想善導・治安維持的な性格を強く帯びながらも、民衆生活の向上・産業の発展という方向への民衆意識の誘導、結果としての就労保障と生活の上昇による貧困を基本とする社会問題の防止という形で、普及が図られたものであると見える。これはまた、周辺諸国・地域に導入された日本の社会教育の概念と実践が、日本の侵出が厳しくなる時代状況において、それら国や地域の大状況としての経済的発展・国力増強、また植民地経営の進展、さらには独立・解放を見据えつつ、現実にはその大状況を実現するためのより基本的な状況である民衆の家計改善と生活向上を求める欲求によって、実践化され、その欲求を実現する実業教育への志向を強めるという形で、現地化されていったことを示している。 このことは、中国や植民地朝鮮・台湾において、民衆は、社会教育を利用して自らの生活向上の欲望を遂げようとし、その地平から、欲望実現を妨げるものに対して、抵抗を試みようとしたのであり、それがその時々の国家権力また侵略者であったということを示している。ここに、侵略-抵抗史観ではない、新たな歴史への視点が開かれることになる。
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Research Products
(1 results)