2002 Fiscal Year Annual Research Report
EU統合とイギリス議会-EU統合における「民主主義の赤字」の克服
Project/Area Number |
14652013
|
Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
谷 勝宏 名城大学, 法学部, 助教授 (60217114)
|
Keywords | 民主主義の赤字 / 超国家モデル / 政府間主義モデル / フォスター委員会報告 / マーストリヒト条約 / アムステルダム条約 / 欧州問題精査委員会 / 議会留保 |
Research Abstract |
本研究は、EUにおける行政府としての役割を持つ欧州委員会とその官僚機構、及び、立法府としての役割を持つ加盟国政府の代表による閣僚理事会に、EUの政策形成・決定の権限と主導権が存在するのに対し、民主主義的な正統性を持つ欧州議会や加盟国の議会が、EU統合の深化・拡大にもかかわらず、十分な統制機能を確保していない実態をEU統合における民主主義の「赤字」と位置づけ、超国家(連邦制)モデルの立場に対抗して、伝統的に政府間主義モデルを採ってきたイギリスの議会(特に下院)が、精査と討論(それはどのような制度的枠組みに基づくものか)を通じて、自国政府のEU政策(ひいてはEU全体の政策形成)に対して、その統制機能を行使してきたかを、EUの機構改革との連関で考察したものである。分析の結果、イギリス議会(下院)のEU立法に対する精査手続きは、1973年のEC加盟時のフォスター報告を起源として、93年のマーストリヒト条約、99年のアムステルダム条約、2001年のニース条約などのEUの機構改革と連動しながら、発展してきたことが指摘できる。マーストリヒト条約とアムステルダム条約では、欧州議会による事実上の拒否権に相当する共同決定手続が強化拡大され、ニース条約では、特定多数決の範囲の拡大が行われた。これらの機構改革は、政府間主義モデルに立てば、加盟国議会の統制を脆弱にするものであった。こうした変化を受けて、イギリス議会は、欧州統合に積極的なブレア政権と協力して、精査のための十分な時間と情報を確保するための制度的保障と、閣僚理事会における政府代表の投票行動に影響力を行使する議会留保の明確化を図り、さらに、欧州問題精査委員会を設置し、常任委員会や特別委員会との連携を強化した。しかし、欧州憲法の制定に関する議論の中で、加盟国議会の役割が注目されており、イギリス議会の関与のあり方についても抜本的な見直しが必要となろう。
|