Research Abstract |
今年度は,ひずみモードの影響を明らかにするため,アルミニウムを試料として,相当ひずみ一定の条件の下で,圧縮のみ,せん断のみ,せん断と圧縮の複合ひずみの3種のモードのひずみを与え,再結晶挙動および集合組織の形成を調査した. 再結晶温度は複合ひずみ材が最も低く,再結晶粒径は複合ひずみ材が最も小さく,圧延材,せん断変形材の順に大きくなった.この結果から,同一相当ひずみの変形を与えても,ひずみモードが異なると再結晶挙動が異なり,複合ひずみ材において再結晶が最も容易に進行することが明らかとなった.また,複合ひずみ材にはせん断ひずみが生じているにもかかわらず,せん断集合組織成分がほとんど存在せず、圧延材に比べて集積度は低いものの圧延集合組織成分のみが存在していた.これは,せん断変形を与えた後に,圧延を行っているためであると考えられる.加工集合組織の形成には異なるモードの変形を与える順序が影響すると言える.再結晶集合組織は,せん断変形材は集積度が低下するが元の方位に近い優先方位を持ち,圧延材には立方体方位が現れたが,複合ひずみ材は圧延材と類似の加工集合組織であったにもかかわらず,立方体方位はほとんど現れなかった.EBSPにより加工材の大傾角粒界の分布を調べたところ,圧縮材,せん断変形材に比べ複合ひずみ材の大傾角粒界の密度が著しく高かった.すなわち相当ひずみが同じであってもひずみ履歴が異なると,微視的な変形組織が大きく異なり,複合ひずみ材では,再結晶の核生成サイトとなり得る方位変化の大きい場所が,高密度で存在した。これが,複合ひずみ材の再結晶温度が低く,再結晶粒径が小さいことの原因であると考えられる.複合ひずみを与えると,再結晶挙動に対して相当ひずみを大きくする効果の他に,ひずみのモードが変わることの効果が加算されることが明らかとなった. 以上の結果は,種々のモードのひずみの導入により組織制御範囲の拡大を目指すための重要な知見である.
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