Research Abstract |
近年,歯周病細菌が何らかの経路で遠隔臓器に感染し,様々な為害作用を及ぼすことが知られるようになってきた。しかし,その詳細な生体反応のメカニズムについては不明である。本研究は,口腔細菌が原因で発症した誤嚥性肺炎を想定した動物モデルを構築して,肺における炎症性の組織変化と局所の炎症がもたらす全身の変化を分子免疫学的に明らかにしようとした。代表的な炎症性サイトカインであるIL-1β,IL-6,およびTNF-α,さらには可溶性のIL-6とTNFの受容体(それぞれ,sIL-6RとsTNFR)の産生動態を指標に,歯周病原性細菌の一つであるPorphyromonas gjngivalis(Pg)の感染によって起こる肺炎が全身にどのような影響を及ぼすのかを調べた。 【方法】動物は,hairless mice(hos : hr-1)を用いた。Pg ATCC33277株の全菌体を超音波で破砕した抗原(100μg)をマウスの肺に経管的に投与して,肺炎を惹起させた。経時的に肺抽出液および血清中の炎症性サイトカインおよび可溶性受容体の産生量を市販のELISAキットを用いて調べた。肺の抽出液は,摘出した肺をホモジナイズした後の遠心上清を用いた。 【結果】肺抽出液中の炎症性サイトカインと可溶性受容体:IL-1β,IL-6,そしてTNF-αの量は,Pg感染後2時間で有意に高い値を示した。また1型sTNFRの産生量は,感染の有無に関わらず変化しなかったが,2型sTNFRの産生量は,感染後1日後にピークとなり,3日後まで有意に高い値を示した。 血清中の炎症性サイトカインと可溶性受容体:TNF-α量は,感染の有無に関わらず変化しなかった。また,sTNFRのどのタイプも著明な変動はないが,2型sTNFR/1型sTNFR比はPg感染後2時間で有意に高い値を示した。一方,IL-6は2時間後に血中から検出され,1日後には検出されなくなった。 【考察および結論】Pg感染後に肺局所において産生された炎症性サイトカインは,I1-1β,IL-6,そしてTNF-αを含むが,血清中ではIL-6のみ検出された。特に,TNF-αは,局所と全身における2型sTNFRの量が増すことによって,抑制制御されている可能性がある。したがって,TNF-αを中心とした局所炎症の拡がりを制御するには,2型sTNFRが有効なのかもしれない。
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