Research Abstract |
誤嚥性肺炎は,食物や口腔内細菌などの誤嚥に起因する肺炎であり,主に高齢者に発症する。とりわけ歯周病に罹患している高齢者の口腔内には大量の歯周病細菌が存在するので,誤嚥性肺炎発症のリスクは高いと考えられる。また,肺炎は重篤になると肺局所の炎症にとどまらず,全身症状の悪化をきたし時に死を招くこともある。したがって誤嚥性肺炎を発症した肺局所の炎症巣の全身に対する影響を知ることは重要である。我々は,本研究援助の下,(1)誤嚥性肺炎のマウスモデルを構築し,(2)肺局所と血清中のIL-1β,IL-6,TNF-α,そしてTNF-αのアンタゴニストである可溶性TNF受容体(sTNFR1およびsTNFR2)の産生動態を比較検討した。誤嚥性肺炎のマウスモデルは,代表的な歯周病細菌であるPorphyromonas gingivalis(P.g)の死菌体をマウスの肺に直接,感染させて構築した。このモデルは,組織学的に,P.g感染後,1-3日後の肺に著明な炎症性細胞浸潤を認め,7日後の肺では健常レベル回復するという比較的弱い炎症症状をきたすものである。我々は,この肺炎マウスにおける肺と血清中において,各種サイトカイン産生量を経時的(感染後2時間,1,3,7日)に測定した。IL-1βは,肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加したが血清中では検出できなかった。IL-6は,肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加し,血清中においても感染後2時間で有意に増加した。TNF-αは,肺局所において感染後2時間のみで有意に増加したが,血清中では検出できなかった。またsTNFR1の産生量は感染の有無によって,肺局所,血清中ともに変化しなかった。一方,sTNFR2は肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加したが,血清中では変化しなかった。また,感染後2時間で血清中のsTNFR2/sTNFR1比が有意に増加した。以上の結果から,この血清中におけるIL-6とsTNFR2の産生量の増加が肺の局所炎症に対する全身反応であることが示唆される。この研究結果により,将来の局所炎症に対するサイトカインを用いた炎症制御療法の発展が期待される。
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