Research Abstract |
本研究は,看護現場に生じている問題状況に対し,質の高い労働生活のヴィジョンに基づいた施策を実施する際の指標とするため,フィンランド国立産業保健研究所において開発されたWork Ability Index(WAI)の日本語版を作成し,看護職者を対象とした調査を行って,信頼性と妥当性を検討したものである. WAIは現在及び将来に関する労働能力の自己評価,疾病及び疾病管理のための休暇取得・労働調整状況,精神的健康状態など7項目60問からなり,総合得点により将来予測を含んだ労働能力の高さを表すことができる. 邦訳は,まず研究者と職業的翻訳家とで英語版WAIの仮翻訳を行った.次に,WAI標開発者と両国の文化・労働環境の相違が及ぼす影響について検討を行い,同時に,概念定義の妥当性検討のため,(1)フィンランド在住の日本語講師と英語版,フィンランド語版,邦訳版WAIの照合,(2)社会生理学研究者と身体運動が労働に及ぼす影響の視点からの検討,(3)看護管理者・実践者・教育者と調査対象の視点からの検討を行った.これらをもとに一部を修正し,WAI日本語試作版Aを作成した. この試作版Aを用いて,2003年8月に1病院184名の看護師を対象とした予備調査を実施したが,WAI総合得点は先行研究に比較して低く,信頼性係数は0.27であった.項目間の関係をみると,休暇取得が少なく仕事内容の調整が困難で,年齢が高いほど精神的労働能力が高いなど,看護師に特徴的と考えられる結果が得られた.このため,労働能力の解説など加筆修正を行い試作版Bを作成し,同年12月に2病院458名の看護師を対象とした本調査を実施した.ここでは0.59の信頼性係数を得たが,内容については予備調査同様の関係が認められた.さらに8週後に44名を対象に再検査法にて信頼性を検討したが相関係数は0.778で,有意な相関を得た.構成概念妥当性の確認には自尊感情尺度(SE),及び蓄積的疲労徴候インデックス(CFSI)を用いたが,いずれも有意な相関が示された. WAI日本語版の信頼性係数は高くなく,概念の説明や対象設定に課題があると考えられ,今後,引き続き調査検討を行う必要があると考えている.
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