Research Abstract |
一地方都市の全ての公立小・中学校に,獲得性脳損傷児についての実態調査を依頼した.調査対象数は小学校124校,在籍児童数55281人,中学校64校,在籍生徒数28606人であった.実際に得られたサンプル数は,小学校89校(71.8%),在籍児童数42436人(76.8%),中学校44校(68.8%),在籍生徒数18669人(65.3%),全体で133校(70.7%),61105人(73.3%)であり,推定の信頼率を99%,予想される母集団の比率を50%とした場合,要求精度1%を満たすのに十分なサンプル数であった.調査の結果,小学校に11人(0.03%),中学校に1人(0.005%),全体で12人(0.02%)の獲得性脳損傷児童・生徒が在籍していることが明らかとなった.また,在籍学級は,通常の学級と特殊学級がほぼ半々であった.アメリカ教育省の1998年-1999年の資料では,6歳から17歳の子どもの0.03%が外傷性脳損傷(TBI)カテゴリーの下で特殊教育サービスを受けている.また,そのうちのほぼ9割の子どもは通常の学校(60%以上の時間を通常の学級以外で過ごす子どもは3割強)で教育を受けている.アメリカのTBIカテゴリーと今回の調査では対象とする障害の範囲が若干異なること,また生活環境の違い等を考慮する必要はあるが,今回の調査でアメリカとほぼ同じ数値が得られたことは注目に値する.アメリカでは,1990年にTBIが特殊教育のカテゴリーとなり,教育システムや教員養成カリキュラムの整備が進められている.一方,我が国では,高次脳機能障害はおろか,獲得性脳損傷の児童・生徒の教育について,議論の俎上にすらのぼっていない.現在のところは,アメリカにおいても教育現場では未だ様々な混乱があるようだが,今回の調査でも,高次脳機能障害特有の症状をどのように理解すればよいのか困惑している,専門機関との連携が必要である,等々の声が聞かれた.今後は,事例に即しつつ,具体的な問題及び教育システム等の整備に向けての課題等について検討する.
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